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「気を取り直して、死神の役割について説明します。死神の役割とは、大まかに言えば現世で彷徨う様々な生き物の魂を回収して冥府へ運ぶことです。生き物が死んだ場合、肉体から魂が離れて現世を彷徨うことになります。そうすると、彷徨う魂を死神が探し出して回収しなければなりません。これが、手間になってしまうので死期が迫る人の側で死神が見守り、その人が死んだ瞬間に魂を回収することで魂が彷徨うのを防ぐというシステムになっています」
幸子は成る程といった表情で首を縦に振って頷いた。
「へぇ〜、じゃあ死神が死期迫る人の前に目に見えるかたちで現れるのは?」
「見守る時間がもったいないので、なるべく未練なく冥府に行けるようにお手伝いする、という"ついで"のオプションです」
「ついでなの⁉︎ ないよりは有難いけども!」
「ということで、何かやりたいことありませんか?」
しれっとした顔をして優希は話をすすめるが、幸子がすぐに思いつくはずもなく、「いやぁ〜急に言われてもねぇ」と首を傾げる。
「ですよね……」
「優希ちゃんは何かやりたいことないの?」
「何で、私?」
まさか自分のことを聞かれるとは思わず、優希は一驚する。
「正直、わたしやりたいことないから、この時間を利用して優希ちゃんの休暇代わりにできたらなぁって。そういえば死神って、休暇あるの?」
「休暇は……ありません。死神は疲労を感じることはありませんので、不眠不休で働きます」
「まさかのブラック企業……。じゃあ丁度いいじゃん! 何かやりたいことない?」
「でも……」
優希は幸子の提案に戸惑うが、それだけではなく優希の瞳の奥には期待が見え隠れしている。
「ほらほら言ってみなよ」
「友達みたいに遊んでみたい、です」
幸子の悪魔の囁きに、ぽろりと優希が口からもらしたのだった。
死神は幽霊同様に通常は人間に見えないらしく、外で死神に話しかけといると変な目で見られてしまう。なので、なるべく家でできることの方がいいという話を優希から聞いた幸子は、押し入れに仕舞い込んで埃を被ってしまったトランプ、オセロ、テレビゲーム、将棋を出してきた。
結果は、ほぼ幸子の勝ちだった。「接待用だから負けてやったんです」とむくれた顔で優希は言ったが、唯一、優希が幸子に将棋で勝ったときの喜ぶ表情を見れば、接待用ではなく本気で挑んで負けたのだとわかる。
それに気がついていた幸子は口には出さなかったが、吹き出して笑っていた。
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