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「では、予定通り最終オーディションには――」
「最後は、直接審査員として参加する。メインで出資はするが、だからといってウチの役者だけで固める配役にはしない。実力を以て合否を決める。原作は未だSNSで話題を攫っている。配給予定の西映からも、面子が集まるしな」
「……分かりました。では、調整して日程が決まり次第社長にお知らせします」
「ああ」
そう答えると、真壁は少し逡巡した後……そっと耳打ちをした。
「聖さん、お疲れでしょう? この半年近く、海千山千の海外勢と交渉を重ねたのだし……思い切って、休暇を取ってはどうでしょうか?」
「いや、そんな事は――」
「ユウさんも、再来週には休暇を終えて日本へ帰って来ます。ご一緒に、親子水入らずでどこか温泉にでも行って、のんびりしては?」
それは、何とも心惹かれる提案だ。
「……考えておく」
そう答えると、真壁はホッとしたように息をついた。
「では、とりあえずこの後はお時間がありますし、いつもの店にマッサージの予約を入れておきました。疲労が蓄積しているでしょうし、リフレッシュしてきてください」
「マッサージなんて……」
「ご安心ください。施術者は女性だけにするよう申し込みました。そうじゃないと危ないですからね。聖さんは、そのまま眠っても大丈夫ですよ。施術が終了した頃合いをみてお迎えに上がりますから」
「……」
本当に真壁は、聖の事をよく分かっている。
思わず苦笑しながら、聖は、真壁の厚意を受け入れることにした。
◇
程よく身体がほぐれた気がする。だるくて重かった肉体が軽くなったようだ。
真壁はその様子に安心したように笑むと、別れ際にそっと囁いた。
「どうか、重々お気をつけて。ヤツが現われたら、すぐに通報してください」
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