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中には、年齢的に自分が勃たないものだから、代わりに親族の男を用意して宛がってきた者もいた。
まったく、歳を取っても欲望だけは健在なものだから、その分、余計にねちっこいというか、しつこいというか――――とにかく疲れた。
それらを思い出して溜め息をついたところ、誉はピクリと肩を揺らした。
「やっぱり、オレはクビか?」
「ん?」
「でも、本当に役者になりたいんだ。だからオーディションだけは受けさせてほしい」
誉は、不正が無ければ、確実に自分は次のオーディションへ進むのだと思っているようだ。大胆なくらい自信あふれるその様子が、聖の琴線に触れる。
――――こういう男は、嫌いじゃない。
「……このあと、予定はあるのか?」
するりと、そう言葉が出ていた。
誉は目をぱちくりしながら、首を振る。
「いいや。今日はもう終わりだ」
「そうか――」
目を細めて、聖は誉に微笑みかける。
「それじゃあ、その紙袋を持って付いて来い。オレの家は、この近くだ」
そう告げると、あとはもう後ろも見ずに、聖は歩き出した。
少しだけ戸惑ったあと、誉はゴクリと喉を鳴らし、その後を追った。
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