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普段は、後ろに流して綺麗に整えてある髪が、どういう訳かバラバラに降りて無造作に額を覆っている。
服装も、いつもはシャツにジャケットというのが定番なのだが、今宵は珍しく上下スウェットというラフな格好だ。
そんなファッションで、そんな目つきをされては。
「――――昔を思い出すな」
碇は、ついポツリと呟いていた。
互いに出会ったのは、十五の春だった。
当時の碇は、天黄組から盃を頂いて必ずや極道になると放言する、血気盛んな若者だった。高校は暴力沙汰が原因で即退学になり、両親も勤めに行っていたので、碇が極道を志すのも不思議な事ではなかった。
だが、歳もとしだ。
まだ極道の道を選ぶには歳が若すぎると、兄貴分たちに難色を示されていたのだが――――自分と同じ歳の野郎が、あろうことか天黄の組長を誑かして、ちゃっかりと自分より先に盃を受けるらしいという噂を聞いてしまい。
怒髪天を突いた碇は、直接、上野の天黄組本家へと乗り込んだのだ。
自分と同じ歳だという、組長を誑かした最低なオカマ野郎の顔面をグチャグチャに潰してやろうと意気込んで!
だが、そこで出会ったのは……予想をはるかに超えた、とんでもない別嬪だった。
今でも、その瞬間の事を、碇は鮮烈に覚えている。
白く美しい肌は、瑞々しい果実のように張りがあり、ほんのり桜色の頬と唇は、乙女のように可憐だった。
刷毛のように黒々とした長い睫毛に、半月のような形のいい眉。不思議な宝石のように輝く碧瑠璃の瞳。
――――何処を取っても、夢のように美しい。
思わずその顔に見惚れてしまい、碇は本来の目的も忘れてしまいそうになった。
しかし次の瞬間、己の股間にめり込んだ膝蹴りの衝撃に、碇は昏倒することになってしまったのだが。
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