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(あれには、マジで参ったな)
本当に玉が潰れたかと、本気で心配してしまった。
その時の事を思い出して、おもわずフッと吹き出すと、聖が胡乱な視線を向けてきた。
「なにが可笑しい?」
「……いや、何でもない。……まぁ、お前とは今まで色々あったが、こうやって酒を飲めるような関係になるとは、人生も捨てたもんじゃないなってよ」
確かに、色々あった。
これまで、仲良しこよしの関係になった事はない。
どちらかと言えば、反目しあい敵対関係だった時間の方が長い。
――――だが、最近は。
「お前、ナモ公国でオレに言った事を覚えているか?」
聖の方からそう話を振られ、碇は意外そうに目を見張る。
「お前に惚れてるって言ったことか?」
「ああ」
「そりゃあ、もちろん覚えてる」
「――返事を聞きたいとは思わないか?」
これに対し、碇は少しだけ考えた後……小さく息を吐いて答えた。
「思わねぇな」
「どうしてだ?」
「……どっちにしろ、お前とは、この先もこの距離のままで居たいと思っているからな。今になって返事を聞いたからといって、それで態度を変える気はない。だから、わざわざ答えなんか聞く必要はない」
「――――そうか」
碇の答えは、聖が真壁に対して出している答えと似ていた。
この居心地の良い関係のままで、この先もずっと一緒にいたいから、リスクのある『yes or No』の答えなど出したくない。
フワフワと不安定だけど、このバランスのままが丁度いいような気がする。
初めて、自分と同じ感覚を持つ人間と通じ合ったような気がして、聖の表情が少し明るくなった。
「ありがとうよ、碇。おかげで気が楽になったぜ」
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