more

13/20
前へ
/149ページ
次へ
(あれには、マジで参ったな)  本当に玉が潰れたかと、本気で心配してしまった。  その時の事を思い出して、おもわずフッと吹き出すと、聖が胡乱な視線を向けてきた。 「なにが可笑しい?」 「……いや、何でもない。……まぁ、お前とは今まで色々あったが、こうやって酒を飲めるような関係になるとは、人生も捨てたもんじゃないなってよ」  確かに、色々あった。  これまで、仲良しこよしの関係になった事はない。  どちらかと言えば、反目しあい敵対関係だった時間の方が長い。 ――――だが、最近は。 「お前、ナモ公国でオレに言った事を覚えているか?」  聖の方からそう話を振られ、碇は意外そうに目を見張る。 「お前に惚れてるって言ったことか?」 「ああ」 「そりゃあ、もちろん覚えてる」 「――返事を聞きたいとは思わないか?」  これに対し、碇は少しだけ考えた後……小さく息を吐いて答えた。 「思わねぇな」 「どうしてだ?」 「……どっちにしろ、お前とは、この先もこの距離のままで居たいと思っているからな。今になって返事を聞いたからといって、それで態度を変える気はない。だから、わざわざ答えなんか聞く必要はない」 「――――そうか」  碇の答えは、聖が真壁に対して出している答えと似ていた。  この居心地の良い関係のままで、この先もずっと一緒にいたいから、リスクのある『yes or No』の答えなど出したくない。  フワフワと不安定だけど、このバランスのままが丁度いいような気がする。  初めて、自分と同じ感覚を持つ人間と通じ合ったような気がして、聖の表情が少し明るくなった。 「ありがとうよ、碇。おかげで気が楽になったぜ」
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加