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「――だから……個人的な普通の自由恋愛だ」
とにかく聖は、そう言い切った。
……まるで自分に言い聞かせるように。
碇はそれを聞くと、しばらくの間、無言でグラスを揺らしていた。
その内ポケットからタバコを取り出して「灰皿をくれ」とバーテンダーへ言うと、そのついでのように呟いた。
「自由恋愛なら、オレが口を出す事じゃないな」
「……」
「これでも、心配してんだぜ? お前は未だに、あちこちの野郎から言い寄られてずいぶん難儀しているって話も聞くし。真壁了なんか、そうとう心を痛めているらしいぞ」
主人を慕う忠犬そのもののように、真壁は毎日聖の事を心配している。
その事を、聖もよく分かっている。
だが、だからと言って、どうしろというのだ?
この生き方は、今更変えられない。
そういう性分で、ずっとここまで生きて来たのだから。
「――――あいつは、マジでオレに惚れているらしい」
「……だろうな」
「でもオレは、可哀想だがあいつの為に変わってやる事は出来ない。誰の為にも、もう変える事はないだろう」
しかし過去一度だけ、大きく生き方を変えた。
天黄正弘の養子に入り、組の跡目を継ぐという未来を捨てて。
まっとうなカタギとなって、ユウと未来を歩むことを選んだのだ。
しかし実際は、夢見た未来とは大きく違う道を歩んでいる。
その事を、今更後悔する気はないが。
「一夏とは……多分、そのうち別れる気がする」
「今さっき、自由恋愛って言ってなかったか?」
「そうだな。オレは……誰かを愛したいんだ」
愛されるのではなく、愛したい。
ただ一途に、心の底から。
そう言いながら、瞼を伏せ新しいグラスに口を付ける聖を横目に……碇は、どこか納得したようにフッと息をついた。
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