more

16/20
前へ
/149ページ
次へ
「要するにお前は、怖がりなんだな」 「なに?」 「真壁の真剣(マジ)に対して本気(マジ)で応えたら、居心地のいい関係が壊れてしまいそうで怖い。青菱史郎は、こっちが本気に成ればなる程、失う未来が見えるから怖い。そしてその息子の方は……まだ学生だろう? 若造のそいつが、いつか、自分以外との違う未来を夢見る可能性だって、無いワケじゃない。そんな『もしも』が頭をよぎって怖くて、どの恋にも二の足を踏んでんだな」  碇の指摘に、聖は何も答えずにただ俯いた。 ――――人の心は移ろいやすい。  熱病に罹ったかのように愛し合った、あの加賀誉だって。  今はもう、聖を見てはいないだろう。  に仕向けたのは聖自身とはいえ、負った心の傷と流した涙は、本当に辛かった。 “愛されるより、愛したい”  でも、その先にある不安に満ちた未来が怖くて、聖はそこで――――どうしても(すく)んで止まってしまう。  まるでそれを見抜いたかのように、碇は頷いていた。 「まぁ、恋愛なんざ無理やりやるようなモンじゃないし。お前はそのままで良いんじゃないのか? オレはそういうお前も、結構好きだぜ」 「……」  碇は、すっかり口を(つぐ)んでしまった聖を見遣りながら、どうしてこの男がこんなにも人の心を引き寄せ魅了し続けるのか、その理由が分かったような気がした。 (誰かを愛したいっていう、その情熱が絶えず溢れ出てやがるから……それが、とりわけこいつを魅力的に見せているんだろうな)  それこそ、誘引の天然フェロモンだ。  この華の、(かぐわ)しく狂おしい引力に逆らえる筈がない。 (惚れないワケには、いかねぇよなぁ……)  そんな事を考えていたら、どうやら碇は自分でも知らぬうちに陶然としていたらしい。 「おい!」
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加