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 その声にハッとすると、聖が、前髪をかき上げながら睨んで来たところだった。 「――――大丈夫なんだろうな!?」 「……すまん、何のことだ?」 「お前、今の話をきいてなかったのか?」  聖は呆れたように溜め息をつくと、おもむろに口を開いた。 「正弘の大親分だよ。心臓の調子が悪いって話を耳にしたから、何度か屋敷を訪ねたが……あの人はいっつも笑って強がりばっかり言って……」  それは、引退した先代の天黄組組長の名前だった。  近藤碇が天黄正弘の後を継ぎ、組の頭に収まって一年。  目に見えて、先代は衰えている。  だが、聖の前でだけは、正弘は生来の剛健な姿のままでいたいらしい。 (昔、こいつが親分の愛人だったとか何とか、まことしやかに噂されていたが)  果たして真相はどうだったのか? (まぁ、そんな事は、もうどうでもいいがな)  どっちにしろ、碇はこの先もこのままずっと、聖に付き合って行くつもりである事に変わりはないのだから。  碇は素知らぬ風を装いながら、優しいウソを口にした。 「親分は、無理しない限りは百まで大丈夫だと、医者も太鼓判を押しているようだぜ」 「本当か?」 「ああ。それより、お前……それを聞きたくて、オレのシマまでわざわざ飲みに来ていたのか?」  そう話を振ったところ、聖は微妙な顔をした。 「……ここだと、オレのことを知っている連中が多いせいで、逆に声を掛けて来ねぇからな」  それはそうだろう。御堂聖はこの界隈では有名人だ。  でもなければ、口説こうなんて無謀なマネはしない。 「オレだって、一人でゆっくりと飲みたい時があるんだ。それには、ここが一番だと最近になって気づいてよ」  だが、一人でゆっくり飲みたいからといっても、マンションで本当に独りきりで飲むのは孤独だし退屈だ。
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