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だからこんな場所まで来て、どうでもいい世間話を、バーテンダーや居合わせた酔客相手に交わしているわけだが。
しかし、やっぱりどうしても寂しくて、ついつい聖は毎回飲み過ぎてしまう。
だが、ここには聖を口説こうとするヤツはいないので、他所のバーのような下手な騒ぎやトラブルは起きないではいるのだが。
それでもやはり、ここ連日のように酔い潰れては、毎度タクシーを呼ぶ状態になっている聖を店側では持て余していたのか、とうとう碇に連絡が行ったらしい。
聖は内心で、そろそろここも潮時だなと思った。
頭になって、組織の引き締めに忙しいであろう碇が、タイミングよく聖が来ている時に、偶然店を訪れた筈がない。
(まったく、これじゃあ……今どきの若い連中をバカには出来ねぇな)
我ながら思う。
これは俗にいう“かまってちゃん”みたいなモンじゃないかと。
「……悪かったな。オレはもう、ここには来ねぇよ」
そう言い残し、聖はマスターにチェックを頼もうとしたが。
「まてよ」
「?」
「ここはオレの店だ。カネはいらねぇよ」
碇はそう断言すると、「まぁもう一杯だけ付き合えよ」と、逆に引き留めてきた。
「悩みがあるなら、ここで吐き出して行け。何やら、ここ数日が特に荒れているらしいじゃないか? 理由があるんだろう?」
野郎に言い寄られて難儀するのは昔からだ。
イロコイで悩むのもいつもの事だ。
大親分と慕っている天黄正弘が心配なのも、本当の事だろう。
だから、諸々全てを忘れたくて酒をあおるが、しかし独りは寂しいというのも……結局毎度の事だ。
――――それ以外は?
すると、聖は、嘆息しながら白状した。
「――実は、ユウが四日前に、休暇を切り上げてヨーロッパから帰って来たんだ」
それはとても嬉しい事だ。帰国祝いに特別のディナーを用意して美食を楽しんだが。
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