more

18/20
前へ
/149ページ
次へ
 だからこんな場所まで来て、どうでもいい世間話を、バーテンダーや居合わせた酔客(すいきゃく)相手に交わしているわけだが。  しかし、やっぱりどうしても寂しくて、ついつい聖は毎回飲み過ぎてしまう。  だが、ここには聖を口説こうとするヤツはいないので、他所のバーのような下手な騒ぎやトラブルは起きないではいるのだが。  それでもやはり、ここ連日のように酔い潰れては、毎度タクシーを呼ぶ状態になっている聖を店側では持て余していたのか、とうとう碇に連絡が行ったらしい。  聖は内心で、そろそろここも潮時だなと思った。  (かしら)になって、組織の引き締めに忙しいであろう碇が、タイミングよく聖が来ている時に、店を訪れた筈がない。 (まったく、これじゃあ……今どきの若い連中をバカには出来ねぇな)  我ながら思う。  これは俗にいう“かまってちゃん”みたいなモンじゃないかと。 「……悪かったな。オレはもう、ここには来ねぇよ」  そう言い残し、聖はマスターにチェックを頼もうとしたが。 「まてよ」 「?」 「ここはオレの店だ。カネはいらねぇよ」  碇はそう断言すると、「まぁもう一杯だけ付き合えよ」と、逆に引き留めてきた。 「悩みがあるなら、ここで吐き出して行け。何やら、ここ数日が特に荒れているらしいじゃないか? 理由があるんだろう?」  野郎に言い寄られて難儀するのは昔からだ。  イロコイで悩むのもいつもの事だ。  大親分と慕っている天黄正弘が心配なのも、本当の事だろう。  だから、諸々全てを忘れたくて酒をあおるが、しかし独りは寂しいというのも……結局毎度の事だ。 ――――それ以外は?  すると、聖は、嘆息しながら白状した。 「――実は、ユウが四日前に、休暇を切り上げてヨーロッパから帰って来たんだ」  それはとても嬉しい事だ。帰国祝いに特別のディナーを用意して美食を楽しんだが。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加