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「真壁さん、社長はまだ連絡が付かないですか? 」 「――先程ご自宅へお送りした。残念だが、ハリウッド映画の話は流れたらしい。半分までは決まっていただけに、さすがに肩を落とされていた」  そう答えたところ、相手は目に見えて落胆した。 「なんだ、さすがにもう社長の神通力も通じなくなりましたか。数年前まではサプライズ演出でウチの役者が抜擢されて、内も外もお祭り騒ぎだったもんですが……」  そのセリフに、真壁は目をキッと吊り上げた。 「言葉に気を付けろ! 今だって社長は充分過ぎる程に、社の為に尽くしているんだぞ。現に、アメリカのCBCで製作しているドラマの配役は、ウチを優先すると確約書を取ったんだ。もうそれで充分じゃないか」  確かに、充分過ぎる程の成果だ。  俳優を海外の事務所へ移籍させるのではなく、国内事務所に在籍させたまま好条件で海外に放出する。  実は、これはかなり手続きが複雑で難しいのだが、ジュピタープロダクションは可能にしている。  日本では芸能事務所に所属すれば仕事をもらえるし、身の回りのケアまでしてくれるのが一般的だ。  だが、アメリカの場合は違う。  俳優に替わって、制作側に出演契約や金額交渉などをしてくれるエージェントとまず個人契約をして、契約が成立したら、マネジメントはまた別の専門の会社に依頼するというやり方が一般的だ。この段階で既に、日本側の芸能事務所は関与が儘ならなくなる。  しかしジュピタープロダクションは、最後まで裏方として俳優のバックアップを可能としていた。  なので、海外で有名になっても存外国内では無名という役者も多いが、その点ジュピタープロダクションはフォローが手厚いのでそういった事にはならない。 「お陰でウチは、質のいい有望な役者が契約を結びたいと言って、次々と来てくれている。今やジュピタープロダクションは、国内でもトップクラスの芸能事務所だ。一時は、老舗だが二流とまで囁かれていたのに……凄い事じゃないか」
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