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諭すように言う真壁に、相手もしみじみ頷いた。
「そうですね……昔を思えば、ウチの事務所は考えられない程の大出世です」
「だろう? 」
真壁はまるで我がことのように頷くと、手にしていたファイルを差し出した。
「ってことで、来週の三次オーディションの案件だが――間違ってもこいつらは取るなよ」
それに目を通し、相手は少し驚いた様子で言葉を発する。
「え? これって、政治家の息子と大物歌手の娘じゃないですか。内々でデビューの打診があったヤツですよね? 充分マスコミにはインパクトが狙えるし、業界でもジュピターの扱いが上がると思いますが」
「ウチは、二世なんか取らん」
溜め息交じりに、真壁はキッパリと言う。
「――それは社長も同じ意見だろう」
「ですが……」
「なんだ? 」
「二次選考で居合わせた他の役者に向かって、こいつらは『ジュピターに合格は決まっているから、もうお前達は無理だ』……とか散々挑発していたようですよ。それが原因で役者の一人とあわやという雰囲気になり、こちらのスタッフが慌てて途中で仲裁したそうですが」
そのセリフに、真壁は思わず舌打ちをした。
「これだからボンボンは! 気を遣わず、もっと先に落としておくべきだったな。オーディションに来ていた他の役者がそれを真に受けて、他所に移らなければいいが……」
◇
「あんた、ジュピターの社長だろう? 」
その言葉に、聖は顔を上げた。
真壁によって自宅マンションまで送ってもらったが、飲み足りない気がしてフラリと行きつけのバーへ足を向けた。
ここ数ヵ月間続いた接待が祟り、まともな物も食っていない。
このバーのマスターは元料理人だ。
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