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頼めば、裏の厨房へ回って、胃に優しい物をパパっと手早く作って出してくれる。
そこも気に入っていて、聖はこの店をよく訪れていた。
「――お前は?」
「オレの名前は加賀 誉。ジュピターの養成所に通っている役者だ」
青年はそう言うと、キッと聖を睨むように見つめた。
黒のお仕着せを着ているので、青年はこのバーに勤めているのだろう。
役者だけでは当然食っていけないので、多くの役者はバイトを掛け持ちしているのが普通だ。この青年も、そうなのだろう。
「……で、何の用だ?」
聖の問い掛けに、青年は悔しそうな顔をすると、カウンターに置いてあったピッチャーを手に取り――
「これが、オレの用件だ!」
そう言うと同時に、ピッチャーの水を聖目掛けてぶっ掛けた!
バシャッと飛び散る水しぶきに、少し離れたテーブル席で寛いでいたカップルが悲鳴を上げる。
すると、この騒動に直ぐに気付いたマスターが厨房から飛び出してきて、その場を確認すると、青年の頭をバシッと叩いた。
「このバカ!! 何をしているんだ! すみません、御堂さん!」
差し出されたタオルで顔を拭きながら、聖は青年を睨み返す。
「……これは何の真似だ?」
「【禁忌】のオーディション、出来レースだってな!? バカにするのもいい加減にしろ! こっちは役作りの為に、死ぬ気で身体を作って頑張ってたんだぞ!」
「オーディション……」
聖はジュピタープロ全ての仕事に絡んでいる訳ではない。特にここしばらくは海外での交渉が忙しく、国内の仕事の多くは他の社員へ任せていた。
確かそれは、真壁達に任せていた案件だ。
「そうか。お前はオーディションを受けていた役者か。で、なにが出来レースだって?」
「――二次選考まで進んだが、そこで居合わせたいけ好かないヤツが『ジュピターに合格は決まっているから、もうお前達は無理だ』って。オレたちがそれを聞いて、どんなに悔しい思いをしたか!!」
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