0 三途駅

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0 三途駅

 人間は死ぬとその魂が彼の世に行く。その道程は、生きている人間が想像しているよりも楽なものではない。  魂が彼の世に行くためには此岸と彼岸を分かつ大河を渡らなくてはならない。この川の名前は葬頭川というのだが、その名前でこの川を呼ぶ者は少なく、皆この川の事を三途の川と呼んでいる。昔はこの川に船が往来しており、数多の魂を彼岸へと送り届けていた。しかし、此岸から彼岸までの川幅があまりにも大きいため、一度此岸から船を出すと彼岸に辿り着くまでに一月はかかる。大変なのは船頭達だ。彼岸に魂を送り届けてまた此岸へと戻ってくるとなると二月はかかる。労働形態としては最悪なものであった。  そこで改革が起こった。三途の川に橋をかけ、列車を通すという計画が発案されたのだ。船頭達はそれに賛成した。その列車や線路の整備工として彼らを起用することが決まったからだ。職に困らないとなれば効率の良いやり方にさっさと変えてしまった方が良い。船渡しが始まる遥か前に存在したという三途の川の橋の文献を参考にしながら工事は行われた。そして完成したのが現在の「此彼列車(しひれっしゃ)」である。  この列車が此岸で通過する最後の駅となるのが「三途駅」である。  この駅は複数ある此岸側の駅の中でも一番小さな駅である。乗降者数もダントツで少ない。理由は複数あるが、大きな理由としては、死んだ人間の魂がこの駅に辿り着くことが稀であるからだ。  この駅には駅員は2人のみである。1人は「空子」という名の駅長、もう1人は「青」と呼ばれる少年だ。  これはこの2人が三途駅で見分した、乗客たちの記録である。
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