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1 ペンダントを持った男の子
昼下がり、三途駅に乗客が現れた。
「すみませーん」
子どもの高い声を聞いた青は、急いでバックヤードから出て窓口の椅子に腰を下ろした。
見たところ、小学校低学年くらいの男の子であった。
「あの、ここできっぷをくれるっていわれたので、きました」
緊張した様子でこちらを見上げて喋る男の子に対して、青はその顔に微笑を浮かべた。
「畏まりました。子ども1名様ですね。……薄緑色の紙は持っているかな?」
「……はい」
男の子は手に持っていた薄緑色の紙を青に手渡した。
「ありがとう、少々お待ちくださいね」
青は紙をスキャナーにかけた。この紙は身元証明書である。ここにはこれを所持している人の名前、生没年日、生前の家族構成、住所、経歴、死因が記載されている。唯一の生きた証とも言えるものである。データを照合し、相違が無いか確認をする。絶対に間違えてはいけない作業である。
「……お名前きいてもいいかな」
「アサダカンジです」
「……よし、確認できたので、乗車券を発行しますね」
青の傍にある小さい機械から、赤色の紙が出て来た。これが乗車券である。
「はい、どうぞ。この券は降りるまで無くさないでね」
赤色の切符を受け取った男の子はぺこりと頭を下げると改札口の方へと歩いて行った。
「……へぇ、子ども一人かぁ。しかもまだ小さいじゃん」
青の背後から声がした。
「空子さん、いつから」
空子と呼ばれた女性は青と同様、紺色の制服を着ているが、若干青のものとデザインが異なる。青の制服の襟元のラインは1本であるのに対し、空子の制服の襟元には3本のラインが入っている。それもそのはず、彼女の胸元のネームプレートには駅長と表記がある。
「今日はあの子1人か、今のところ」
「そうですね。数日ぶりの乗客ですよ」
三途駅はとても規模の小さな駅である。この駅に務めるのは青と空子の2人、改札をくぐるとすぐにホームという無人駅ギリギリの状況である。
「つぎの列車は……3時間後か」
空子が背後に貼られている時刻表を見て唸った。
「あの子ずっとホームで待たせるのも悪いな」
そう言って空子はスタスタと歩き去っていった。空子はお節介焼きなのである。案の定、戻ってくると先ほどの男の子を連れてきていた。
「まぁ、そこ座ってよ。お茶でも飲もう」
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