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『間もなく、此彼列車が当駅に参ります』
駅のホームに無機質な声が流れる。青と空子はこのアナウンスを聞くと駅のホームへ出た。乗客を見送ることも業務の一環である。
「さあ、いよいよ列車が来るよ」
青は男の子に向けて言った。男の子は少し緊張した面持ちだった。
「お母さんに、会えるかな」
「会えるさきっと。ね?空子さん」
青は空子に話を振った。空子はんー?と生返事をする。
「彼岸に行けばいよいよ人間ではなくなる。生前の記憶を持っている魂も少ないよ。それでもちゃんとやっていけるかい?」
男の子は空子の言葉に深く頷いた。
「頑張ります」
「……そうかい」
もう一度、駅のチャイムが鳴り響く。すると、線路の遥か向こう、霧の中から黒い列車が姿を現した。列車は3両編成。本来は6両編成なのだが、その編成の列車はこの駅には停まらない。三途駅に停車する列車は皆3両編成である。
黒い列車は、3人の目の前でプシューと音を立てて停車し、ドアを開けた。
『此彼線三途駅経由彼岸駅行き間もなく発車いたしまーす』
車掌が先頭の窓から身体を乗り出しマイクでアナウンスを始めた。
「ほら、時間だよ」
空子は男の子の背中をポンと叩いた。
「行ってらっしゃい」
男の子は頷くと、列車の中に入っていった。
『発車しますご注意ください』
アナウンスと共にドアが閉まり、再び列車が動き出す。ガタンゴトンと次第に加速していく列車はあっという間に駅のホームから抜け、向こうにうっすら見える彼岸までの橋に差し掛かり、霧の中へと消えていった。
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