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男の子を見送った駅のホームで、空子は青に向かってこう言った。
「あの子の親御さん、今頃どうしてると思う?」
「……どうしてるって」
「あの子はもう二度と親御さんには会えないよ」
「え、なんで」
「あの子の親御さんはこの駅に来ていない。これだけですべてお察しなのさ」
三途駅にやってくる魂は皆生前の記憶を持っている。逆を言えば、生前の記憶を持っていない魂は三途駅に辿り着くことが出来ない。彼の両親が三途駅を通過していないとすると、
「あの子が両親に会えたところで両親はあの子の事を覚えていないということですか」
青の言葉に空子は頷いた。
「そもそも、彼岸に行けば魂は人間の形を留めなくなる。誰が誰だか、見分けることは出来ないよ」
「それは、あの子にとって」
「あぁ、残酷な話だね。でも、我々にはどうすることもできないんだよ。我々の仕事は、この駅にやってくる魂に対して切符を売るだけさ。それ以上の事も以下の事も出来ないよ。……ま、さっきみたいに駅員室に連れてきて飲み物くらいは出してあげられるけどさ」
口を真一文字に閉ざした青を見て空子はふっ、と笑った。
「私が酷い奴に思えるか?」
「……少し」
「ははっ、正直だなお前は」
あの子はきっと彼岸へと渡り、その形を留めなくなった後で、ペンダントを手掛かりに親を探して彷徨うだろう。二度度会えないとは知らずに。
「死は怖いものさ」
空子は言った。
「余計な事、本当の事を教えてしまっては、場合によってはその魂の成仏に関わってしまうかもしれない。だから、死の旅をする魂たちに我々は毒にも薬にもならない事しか言えないんだよ。君も覚えておいて」
空子はそう言い残して駅員室へと入っていった。
青は、薄暗いホームでひとり、目の前に広がる三途の川をぼんやりと眺めているしかなかった。
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