はかねの煙り

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          -はかねの煙り-212d7d91e-9719-45e7-9b87-61c350082bf0 制作:kaza to kumo club 湯舟につかり、満点の星をながめていると、 あの時、私がなぜ警察に連絡しなかったのか……わからなかった。 ただ、なんとなくそうしてやりたかった。 死んだあの女のためにも……。 どうしてかって……? それは………。 はかねの煙り。 この湯の中に漂うまろやかな湯気のように、 あの女の首すじが、あの肌が……、 とても美しかったからだ。 「はかね」とは、はかなげな音色の事。 私の亡くなった姉がよく私に聞かせてくれた音色。 とてもせつなくて、どこか色っぽい……心にしみる横笛の旋律。 その音が私は大好きだったのだ。 「女の音色よ……。和也……」 笛を吹き終えた姉のまなざしは、 とても17才には思えぬ色気があった。 「そう言えば……あの女……姉さんに似ていたなあ?」 道の脇に彼女をよせ、 木々の間に立て掛けた私は自分の行為に驚いていた。 ”なにをやっているんだ……私は……?” そう考えながら、死体の顔を覗き込んでいた。 女の顔は半分歪んでいた。 額からは血が流れ、左の頬まで達していた。 目はうつろで白く濁り、ぼんやりと地面を眺めているようだった。 だが、思わず私は息を飲んだ。 彼女のはだけた胸元から黒いブラが見え、 そのふくよかな白い肌が透き通るように…… 美くしかったからだ。 加えて、 私の目を奪ったのは……その細いうなじだった。 夕暮れのあわいセピア色が首すじに残る 1本の血のしずくを……あざやかに映しだしていたのだ。 私は見入ってしまった。 うかつにも……。 唸るエンジンが……そんな私をせかすようだった。 はかねの煙り2p改定 -2p-
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