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-はかねの煙り-3 制作:kaza to kumo club
「姉さん、姉さん……。
どうして逝ってしまつたの……姉さん?」
私が15才の夏。
姉は友人の車に乗って、海に出かけ、事故にあった。
全身打撲で内臓もやられていた。
「助からないかもしれない……」
おもおもしく父は言った。
病室の姉はミイラのようになって、天井を眺めていた。
ただ、ぽんやりと白いうなじだけが見え、痛々しいあざを残していた。
「姉さん……」
彼女はあの死体のように、なにも答えなかった。
そして、4日後、
姉さんは帰らぬ人となってしまったのだ。
「お客さん、床のご用意できましたで……」
「あっ、ありがとう」
さりげなく会釈をして、部屋を出ていく女中さんが言った。
”秋田美人とはああ言ったものか……?”
あたたかい部屋の窓べりのイスに座る私は、まだそれでも、
あの死体の事を考えていた。
”あのままでいいのか?
今からでも警察へ……?”
手には携帯電話があった。
だが、結局、
私は連絡しなかった。
恐かったからかもしれない。
”面倒はごめんだ”
つまるところ、それで済ませた。
あのトラブル以外は順調なのだから……。
せっかくの休暇を台なしにする事はない。
そう、考えた。
釈然としない自分を押し殺すために、早々と床に着く事にした。
眠るには十分すぎるほど疲れていたからだ。
それで終わるはずだった。
あの音色を聞くまでは……。
はかねの煙り3p改定
-3p-
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