ひと夏の幕開け

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 友人に薦められたマンガの、無料お試し巻を読み終えた。面白かったけど、購入はしないかな。マンガアプリを終了すると、ちょうど15時前だった。そろそろ支度をするか。  その前に仕上げたレポートを印刷してしまおうと、リビングに置いてある共用のパソコンを開く。全学部共通の授業、学部の選択授業、それから学部の必修授業が、今期のレポート課題である。特に必修の課題は、4000字以上という条件で、陽人を苦しめた。  USBに保存したデータを呼び起こし、慣れた手つきで印刷の操作をする。パソコンとプリンターが正常な動作を始めたのを見届け、あれ、そういえばうちにホッチキスあったかなと席を立つ。  ピーーーーーーー。  嫌な音が聞こえてきた。戻ってパソコンの画面を覗くと、まさかのインク切れを知らせていた。  インク切れ。  なんで今日。なんでこのタイミング。  インクって買い置きあったっけ。どこにあるんだろ。  父さんに聞かないと。電話する?いや、仕事中だ、気づくかわからない。  どうしよう。焦りで頭が上手く回らない。脳味噌がぎゅっと萎縮して、思考が狭まっているかのようだ。考えろ。考えろ。  インク買いに行く?どこで売ってるんだ?コンビニにあるのかな。いや、電気屋か。この辺りだと駅前しかないな。  どうしよう。どうしたら。ああ、あんなに余裕があったのに、時間は刻一刻と過ぎていく。  どうせ駅前に行くのなら、学校に行ってしまった方が早い。  駅まで自転車で15分。大体いつも20分毎に急行来るよな。  急行で30分で大学の最寄駅に着くから、16時前には学校に着くな。  よし、見えた、とどうにか光を見出し、駆け出した。後は考えるよりもとにかく動け、と。  リビングを飛び出し、乱暴に開けたドアもそのままに、自室へと階段を駆け上がる。服を、掴んだ、これ一昨日着たばかりだ、そんなことは言ってられない。鞄、昨日バイトに持って行った鞄、財布とか入れっ放しのはず、掴んで、階段を駆け下り、USBメモリ、1番大事、パソコンから抜き取り電源を落とす。きちんと切れたか確認もせずに玄関へ。スマートフォンでで時刻を確認しながら靴を履く。15時7分。自転車を飛ばせば間に合う、だろう。  自転車のスタンドを上げ、陽人は全力で漕ぎ出した。この15分に、6単位がかかっているのだ。  あ、そういえば、クーラー切るの忘れてた。まあいいか。
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