ひと夏の幕開け

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 駅のホームに着いたのは、15時19分だった。いつもよりも3分ほど所要時間を短縮できた。あ 炎天下を必死に漕ぎ続け、汗が鬱陶しいほど止まらない。早く涼しい車内に入りたい。  スマートフォンで時刻を確認すると、15時21分。あれ、遅れてるのかなとホームの電光掲示板を見ると、15:20発急行の文字はなかった。なんでだ、時刻表変わったのか?一瞬戸惑う。そういえば今日は土曜日だった、平日よりも電車の本数が少ないのか。なんで今日に限ってタイミングの悪いことばかりとイライラしながら再び電光掲示板に目をやると、25分に普通電車が来るようだ。よかった、あまり待たずに済む。  定刻に電車は来た。この時間だからか、乗客はほとんどない。そこお陰か車内はいつもよりも冷えているように感じた。なかなか汗はひかないが、体中の汗が冷風で冷えていくのは心地よい。  そういえば、とスマートフォンを取り出す。届いていたメッセージをきちんと確認していなかったな。アプリを起動し、上から見ていく。 『どなたかシフト代わっていただけませんか?明日30日9時-15時、よろしくお願いします!』 へえ、明日ミサキちゃん入れないんだ。アルバイト先ののグループトークに届いていたメッセージを読み、少し萎える。明日は陽人もシフトをいれていた。  そのアルバイト先の、昨日一緒にラストまで働いた2年上の先輩からも個人メッセージが来ている。 『昨日あの後どうしたんww レポートちゃんとやったかwww』 『まじ帰ったの1時っすよww 死にそっす』 と返しながら、単位も取り終えて就活も終わった4年生は気楽でいいなあと少し恨む。  昨日はバイト後、先輩達に半ば無理矢理飲みに連れて行かれていた。レポートも書き終えていなかったのに。まあ、元々寝ずにやればいいと思っていたので、少しくらいならという気持ちがなかったでもないのだが。結果、無事終わったので良しとしている。  そういえば、とトーク履歴から名前を探す。 『この間言ってたマンガ読んだよ めちゃ面白かったww最高だわ』 本当はそこそこだったが、先程読んだマンガの感想を送る。 『よんでくれたんですか?うれしい〜 はるとさんぜったい好きだとおもった〜』 平仮名ばかりの返信がすぐに来る。かわいい。 『てかユナめちゃマンガ詳しいねw意外ww』 『意外ですか〜? けっこう少年マンガよみます笑 というかはるとさんマンガよんでるひまあるんですか〜?笑』 『ないwww今まじでやばいww 今から学校向かってるwww』 『え、やばすぎ笑 わたしさっきもう出しましたよ!』 『えらすぎ!てかユナも割とぎりじゃんw まだ学校いるの?』 ユナは同じサークルの後輩で、たまたま陽人と同じ学部とあって仲良くしている。  ユナからの返事が少し途絶えたのを気にしない振りをしながら、SNSのアプリを開く。レポート提出終わった。夏休み到来!誰かまだ学校おる?そんな投稿が目につく。うわ、みんなもう提出終わってるんじゃん、とアプリを終了する。焦っても、電車の到着時間は変わらない。  ユナからの返事も来てないし。スマートフォンをしまい、精神的、身体的疲労で限界を迎えた陽人は座席に深くもたれ、目を閉じた。
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