七宝つなぎの夜

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カップ酒しか出してこない居酒屋。すこぶる口の悪い横暴な店主。 さっきまでの出来事を思い出す。 不思議な体験という言葉で片付けるには、強く記憶に残る時間。 ほんとに、あれは一体何だったのかな…。 歩道の真ん中で突っ立つ私の前後を、男女のグループが邪魔そうに通りすぎる。 すみません、と頭を軽く下げると、はらりと頬に髪が貼り付いた。右手で耳にかけると、髪の生え際にじっとりとした汗を感じて指先が濡れる。 今まで室内に居たから急に汗が出てきたのかな。妙に暑い。 あの店の中は過ごしやすい気温だった。 冷房特有の刺すような冷気が感じられなくて、温かい料理が心地よいくらいの、そんな空気が漂っていた。 「…変なの」 カップ酒でも買ってみようかな。三分の一も飲めないかもしれないけど。 私は七宝柄の浴衣の裾を整えて、軽い足取りでコンビニに向かった。
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