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プロローグ
昔々、一組のきつね親子が人里離れた山のふもとでひっそりと暮らしていた。母と子の二匹だけだった。
ある日、母は子を連れて、餌を探しに出た。二匹は人里をおりて田畑の間を駆け回った。
あぜ道で二匹が休んでいると、二匹の体に小石がぶつかった。二匹が体を起こして小石が飛んできたほうを見ると、そこには人の子が数人いた。
「あっ、生きてる!」
「生きてるのを確かめるだけなら、石を投げなくてもよかったんじゃない?かわいそうだよ」
「それより、なんで、こんなところにいるのかな。雪が降ってきてるのに…」
人の子らは小石を投げる手を止めて、口々に話している。そんな人の子らをよそに二匹は震える足を動かして、ゆっくり歩き始めた。
しかし、すぐに銃声が聞こえて、母ぎつねは脇腹から血を流しながらその場に倒れた。子ぎつねはもちろん、口々に話していた人の子らも驚いて呆然としている。
「おめぇら、大丈夫か!?」
慌てて人の子らに駆け寄ったのは銃を持った村の男だった。
「…なんで?」
「えっ?」
うつむいた人の子らの泣きそうな表情と言葉で、男は驚く。
「なんで殺しちゃったの!?」
「なんでって…、おめぇら、襲われそうになってただろ!?」
泣き出した人の子らに男は戸惑っていた。
その間に、子ぎつねは勢いよく駆け出した。
夢中で近くの山を駆けのぼる子ぎつねは、どす黒い感情に襲われ始めていた。山の池に着くころには、黒い何かが子ぎつねを包み込んでいた。
「呪われし、穢れ神」
どこからか響くその言葉を聞いて、子ぎつねの意識は途切れたのだった。
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