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放課後、教室は騒がしく、伊澄は足早にある場所へと向かっていた。それは、帰り道にある図書館だ。
伊澄の父親・春康は民俗学者で、自宅近くにある風水稲荷神社の歴史について調べている。その影響で伊澄も民俗学や神社が好きになり、いつも図書館で民俗学や神社についての本を借りているのだ。
「ほとんど家にあったりお父さんに教わったりしてるから、借りたいものもなくなっちゃったな…」
「あれ、内藤さん?」
伊澄が何か面白いものがないか探していると、そばに蛍汰が立っていた。
「えっ、田村くん!?」
伊澄はとても驚いて大きな声を出していたが、ここが図書館だということを思い出して口に手を当てた。それから伊澄は、蛍汰が手に持っている本を横目で見た。
「…田村くんも、神社の本読むんだね」
「あ、あぁ。父さんが宮司やってるからな」
感心している伊澄とは逆に、蛍汰は恥ずかしそうに照れながら本を元の場所に戻した。
「へぇ、わたしのお父さんは民俗学者なんだ。なんていう神社なの?」
伊澄は照れている蛍汰を少し意外に感じながらも話しかける。そして、滅多に自分から話しけることはないのに、自分から話しかけている自分自身に驚いていた。
「この近所じゃないんだけど、風水稲荷神社っていうんだ。わかるか?」
「そうだったの!?わかるよ、お父さんとよく行く神社だよ!」
神社の話になるとよく話す伊澄の勢いに蛍汰は押されていた。しかし、神社について楽しそうに話す伊澄を見ていた蛍汰も、神社をこんなにも好きな人がいてくれることに嬉しさを感じていた。
「もしかしたら、おれらも会ってたかもしれないな」
「そうだね。…わたしは何も借りないけど、田村くんはどうするの?」
嬉しそうに笑う蛍汰に、伊澄は話を切り替えた。蛍汰が腕時計の時刻を確認すると、結構な時間が経っていた。
「もうこんな時間だ。父さん、怒ってるだろうな…。おれは、父さんに頼まれたきつねの本と池の本を借りてくよ」
「あっ、引き止めちゃったね。ごめん!」
「全然大丈夫。…そうだ。内藤さんももう帰るなら、途中までだけでも一緒に帰る?」
「え?」
慌てながらも蛍汰は、謝る伊澄に声をかけた。予想もしていなかった蛍汰の言葉に、伊澄は目を見開いた。
「もう帰るけど、…いいの?」
「もちろん。おれ、家が神社だってあんまり言ったことなくてさ、神社のこと話せる知り合いっていなかったから、内藤さんともっと話してみたいんだ」
「…うん、わたしも風水稲荷神社のこと、知りたい」
伊澄の返事に、蛍汰は吹き出しそうになった。それで伊澄は赤面していた。
「ほんと、内藤さんって神社のことばっかだな」
「もう、笑わないでよ!」
初めて話す二人だったが、なぜか二人とも懐かしさを感じていた。
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