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ともに帰ることになった伊澄と蛍汰は、図書館から出て帰路についていた。
「さっき、きつねと池の本を借りるって言ってたよね。なんでなの?」
徒歩の伊澄と合わせて自転車から降りて歩く蛍汰に伊澄は、ふと思い出していたことを口にした。
「あぁ、あれね。あれは、うちの神社の言い伝えにあるものらしいんだ」
「言い伝え?」
蛍汰の言葉に伊澄は首を傾げる。それに蛍汰は頷いた。
「そう。きつねは稲荷神社だからで、池は神社の本殿の裏にあるんだって。おれはまだ見たことないけど、その池ときつねは何か関係してるみたいで、その二つに関する本を借りてこいって頼まれたんだ」
「へぇ、そうなんだね…」
伊澄は頷きながら話を聞いていたが、突然、視界に蛍汰の姿が映り、すぐに伊澄は蛍汰の体が自分のほうに傾いていることに気づいた。それでも体はすぐに反応できず、伊澄は下敷きになるのを覚悟した。
「…っつ、伊澄大丈夫か!?」
座り込んでいた伊澄は痛みがないのと上からの声に驚き目を見開いて上を向いた。そこには倒れた蛍汰と自転車を器用に支える春康がいた。
「お、お父さん!」
「大丈夫そうなら、…とりあえず、自転車をどかしてくれないか」
「あ、う、うん」
安心してため息交じりに言う春康に、伊澄は急いで立ち上がり自転車をよけて起こした。自転車を起こしながら伊澄の見る蛍汰の姿はとても苦しそうだった。
「…すごく苦しそう」
「そうだな…。神社まで、まだしばらく歩くがお前は大丈夫か?」
「うん」
心配そうな表情の伊澄をよそに、春康は蛍汰を背負い歩き出した。黙って歩き出す春康のあとを追うように伊澄は自転車を引きながら駆け出した。
「……ねぇ、お父さんもまた神社に行く途中だったの?」
気まずそうに切り出す伊澄に春康は頷く。
「あぁ。また田村と話したくてな。…そういうお前こそ、男子とここを歩くなんて、彼もこのあたりに住んでるのか?」
「え、お父さんも田村くんに会うの初めてなんだ?彼・田村蛍汰くんは、お父さんが今から会いに行く田村さんの息子なんだって」
「そうなのか?彼が田村の息子!?」
聞き返した春康は、伊澄の返事にとても驚いて伊澄を見ていた。
「うん。ちょうど図書館で彼と会ってね、お父さんに頼まれて本を借りに来てたらしんだ。それで、一緒に途中まで帰ろうってなってたんだけど…」
「…そしたら、急に倒れたのか…」
「うん、…そう」
心配そうに顔をうつむかせて頷く伊澄に春康は戸惑い黙り込んだ。
黙ったまま二人が少し歩くと石鳥居が見えてきた。
『…あれ、こんなに早く鳥居が見えたか?まぁ、いいか』
歩きながら春康は一瞬神社に違和感を抱いたが、ずっと苦しそうにしている蛍汰と心配そうにしている伊澄をまず優先することにした。
しかし、二人は神社の石鳥居の前まで来て、愕然とした。短い石段の上に見えるはずの風水稲荷神社の拝殿がなくなり、かわりに長い石段が森林の中に続いていたのだ。
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