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伊澄と春康は石段の先にたどり着いていた。石段の先には赤い木鳥居が立っていて、そこを抜けると目の前には濁った水の池があり、池の向こうには小さな祠が見えていた。
「なに、ここ…」
伊澄は信じられない光景に震えていた。春康は背中の蛍汰を優しく地面におろし、ため息をついた。
「……多分、ここは今まで本殿の裏にあった池だろう。でも、なんでそれがここに…」
「あ、池のこと、わたしもさっき田村くんに聞いたよ。田村くん、きつねと池に関する本を借りてた!」
冷静に考え込む春康とは逆に伊澄は興奮していた。
「内藤くん!きみ、ここまで来れたのか!?」
そんな声とともに袴姿の男性が女性と一緒に脇の森林から出てきた。風水稲荷神社の宮司・と妻の千花だ。突然、出てきた彼らに驚きながらも、春康は安心した表情だった。
「田村、無事だったんだな!」
「あぁ。急に、地震が起きた思ったら、わたしたちはいつの間にか森林の中にいた。しばらくして、きみの声が聞こえてきたから、安心したよ」
再会を喜ぶ二人の様子に伊澄と千花は呆然としていたが、ふと目が合い千花は微笑みながら伊澄のそばに来た。
「内藤、伊澄ちゃん?あなたも遊びに来てくれたのね……」
伊澄に話しかけながら彼女は、伊澄のそばにいる蛍汰に気づいて目を見開いた。
「け、蛍汰!?」
蛍汰のそばに寄る千花に、図書館や帰る途中での出来事を伊澄は慌てて話した。蛍汰のことを忘れていた春康や蛍汰の存在に気づいた典彦も、千花の声で蛍汰のそばに駆け寄っていた。
「蛍汰…。まさか、わたしが頼んだ本で思い出してしまったのか…」
「思い出す?」
典彦の言葉を不思議に感じた伊澄は聞き返していた。思わず声に出してしまったらしい典彦は気まずそうな表情になった。
「あぁ、いや、なんでもないんだ。それよりも、早くここから離れたほうがいいかもしれない。また異変が起きるかもしれない……」
典彦が歯切れの悪い返事をしていると、突然、あたりが激しく揺れ始めた。
「なっ、地震!?」
四人は驚いて、身動きができずにいた。
「早く石段を下りて、ここから離れて!」
「空間が歪み始めてるから、急いでっ!」
突然、そんな声が空から聞こえてきた。
「えっ!?」
驚きながらも四人が空を見上げると、白いきつねと黒いきつねの二匹が宙に浮いて叫んでいた。
「どこから出てきたんだ!?」
「……神使?」
きつねに驚く春康と典彦に向かって、それどころではないと感じた伊澄と千花は咄嗟に叫んだ。
「お父さん、とにかく早く降りよう。お母さんが心配だよ!」
「あなた、蛍汰をお願い!」
二人の声で春康と典彦は我に返り、頷く。
「あ、あぁ、そうだな」
そして、蛍汰を典彦が背負い、四人は急いで石段を駆け下りた。
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