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夜遅く、気配を感じた蛍汰は目を覚ましていた。起き上がり、まわりを見回すと、そこは見知らぬ座敷部屋だった。倒れる直前の記憶がおぼろげで、蛍汰はため息をつく。
「……ここはどこだ?父さんと母さんもいるから…、有り得るとしたら、内藤さんの家か…」
一人小さく呟きながら蛍汰は廊下に出た。廊下は縁側と繋がっていて、そのまま外に出られるようになっていた。その縁側に腰掛けた蛍汰は、そこから見えるはずの神社のほうを見つめた。しかし、森林が見えるだけだった。
「おれが倒れている間に、何かあったのか…?」
「そうだよ」
眠っている両親のほうを見ながら蛍汰が考え込んでいると、突然、うしろから声が聞こえてきた。蛍汰が驚いて振り向くと、縁側の前には白いきつねと黒いきつねが座っていた。
「うわっ、お前ら、いつからそこに!?…ってか、何者!?」
驚いた蛍汰は慌てながら二匹に叫んだ。
「しー!みんなが起きちゃうっ!」
蛍汰の大声に驚きながらも二匹は蛍汰を落ち着かせた。二匹に言われた蛍汰は「あっ」と呟き、うしろを振り向く。寝ている両親たちが起きることを心配した蛍汰だったが、だれも起きる様子はなく蛍汰は安堵のため息をついていた。
「……それで、お前らは一体何者なわけ?」
「さっき、きみは倒れていたから、はじめましてだね。ぼくは水晶で、となりにいる黒いのが風林」
「おれたちは、風水稲荷神社の神使なんだよ」
戸惑う蛍汰に二匹はそれぞれ答えた。二匹のきつねの言葉に蛍汰は頭の整理が追いつかず、しばらく呆然とした。
「し、んし…?そ、それって、神様の使いってこと?」
やっと出た蛍汰の質問に二匹は頷いた。そして、風林は空中で回転してどこからともなく一つのきつねのお面を出した。
「そう。そして、風水稲荷神社の神様、つまり、祀られているのは、お前なんだ」
「え、おれが神様?まさか!…だって、本当にそうだとしても祀られてたら、おれはここにいないじゃん」
お面を受け取りながら蛍汰は、風林の話が信じられなかった。そんな蛍汰を見てから二匹は顔を見合わせた。
「……それじゃあ、きみが倒れたり具合悪くなったりしたのは、どうしてなの?『呪い』とフラッシュバックが原因なんじゃない?」
「お前がここにいられるのは、神社に身代わりがいるからなんだ。…といっても、あの時のことは覚えてないみたいだな」
水晶の言葉に、全部お見通しってわけかと思った蛍汰だったが、風林の言葉に目を見開いていた。
「身代わり?それに、あの時って…」
「原因が『呪い』だってなんとなくでも気づいたなら、その『呪い』を解いていけば必ず思い出すよ。…もう時は動き出した。『呪い』を解けるのは、きみだけなんだ」
戸惑っている蛍汰をせかすように二匹は立ち上がる。同じように立ち上がった蛍汰だったが、疑問があった。
「『呪い』については、父さんから聞いたことあったからなんとなくわかったけど、それは他人にまで影響するものなのか?」
「今の神社を見ればわかるだろう!影響大ありだ」
「結界が破れて、呪われた池に沈んでいる少年がその影響で、ある人…、内藤伊澄の兄である詩陽を殺めてしまったんだ。まだ遺体を少年が持っているだろうから、詩陽は行方不明扱いにされているから彼女も少なからず影響を受けているはずだよ」
「内藤さんも絡んでるのかよ…」
理解しがたくなってきた蛍汰は頭を抱えながらため息をつく。そして、少し顔をあげて蛍汰は水晶の言葉を思い出す。
「……内藤さん、兄貴いたのかよ。しかも、その人は行方不明って…。ずっと平気そうな顔してて、ほんとはつらいのかな」
蛍汰は、しゃがみ込み一人呟く。二匹のきつねは静かに蛍汰を見守っている。二匹が自分が決断するのを待っていてくれているのだと感じた蛍汰は、「よしっ!」と小さく叫び立ち上がる。
「まだ理解とか納得してねぇ部分もあるけど、そんなことになってるなら早くなんとかしねぇとな!」
意気込みながらお面をつける蛍汰を見た二匹は素直に嬉しかったが、正直蛍汰を巻き込んだことを後悔していた。
「……『呪い』を解くには代償が必要だってこと、言えないよな」
「必要というか必然なんだけど、…あの子たちとの思い出が消える、なんて、ね…」
神社に向かって歩き出す蛍汰を見て、二匹は呟いていた。
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