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「わぁ、キレイ!」
ホームシアターのスクリーンに映った珊瑚礁とカラフルな宝石みたいな魚たちを見て、樹莉亜は瞳を輝かせる。ガウンを着てうつ伏せに横たわった身体ごと、ベッドの上で抱き寄せる。
「清隆さん、あたしも行きたーい」
ブルーラグーンに真白な渚。並んだコテージの背後には、景観を乱さない白亜のデザインの都会的なリゾートホテル。
カラフルな原色のフルーツに、飴色のスパークリングワイン。マゼンタの夕焼けが暮れると、紺碧の空にダイヤモンドダストのような天の川が広がる。ダイヤ、ルビー、サファイア……大粒の宝石を配した星空が、穏やかに繰り返す波音を包み込む――。
「いいよ。ラジャアンパッドのホテルを抑えてくれるかい」
ガウンの前合わせの中に右手を滑り込ませようと、彼女の身体を起こそうとする。ムスクの香りをフワリと撒いて、クスクスと笑いながら俺を見る。
「2人?」
「……3人だ」
香央莉を入れることは、暗黙の了解。樹莉亜はプイとふくれ面になると、俺の手を逃れてベッドから降りた。
「もうっ。いつになったら、奥様抜きで遊びに行けるのかしら、社長?」
彼女はスクリーン前の革張りのソファにドサリと身体を沈めると、タブレットを操作し始めた。
「無理言うなよ……。君も知っての通り、社長ったって俺は『名ばかり社長』。実権は杜川と香央莉に握られてるんだぜ」
情けないが、これは事実。大学時代に出会った香央莉に一方的に見初められ、卒業後は彼女の父親が経営する大手商社に就職した。もちろん、将来の社長候補としての特別採用。新人にあるまじきトントン拍子の実力を伴わない出世を果たし、5年前に社長に就任した。会長だった義父も一昨年亡くなり、目の上の瘤も消えた。
しかし、俺が経営の才覚を持ち合わせていないことは、古参の社員には周知の事実であり、重鎮共が結託して社長の椅子から引きずり下ろそうとする造反があった。株主総会で議題が上がる、すんでの所で阻止したのは、切れ者の社長秘書杜川だ。彼は、苦楽を共にし、慕い続けた会長の娘である俺の妻・香央莉への恩義を楯に造反組を抑え込んだのだ。
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