0人が本棚に入れています
本棚に追加
八月四日
平成三十年八月四日。
友人の紹介で知り合った女の子と、花火大会に来ている。
破裂するような重低音が響く度に、一際眩しい火花が散る度に、「すごいねぇ、綺麗だね」と彼女は言う。
素直だな、と思う。
きっと、幸せな家庭で育ったのだろう。
彼女と僕に「この先」はあるのだろうか。紹介してくれた友人には申し訳ないが、僕には、それがあるとは思えない。
――一人暮らし? おむちゃんには無理よ。一人じゃ何もできないじゃない――
今日僕が地元に来ていることを、僕の家族は知らない。最後に連絡を取り合ったのはいつだろう。誕生日なんかにラインが来ても、まともに読んでいない。当然、返信もしていない。
――だってそうでしょう? 今までママにご飯でも何でもやってもらってて、いきなり一人でできるわけないじゃない。違う?――
今日はあまり気乗りしなかった。こうして、昔のことを思い出してしまうから。
――考えてもみてよ! 今まで愛情かけて育ててきたのに、ママ何も返してもらってない! それで出てくなんて親不孝よぉ!――
よりによって地元だなんて……花火大会なんて、都内やその近郊の至るところで催されているというのに。いや、仕方ないじゃないか。彼女をそつなく案内するためには、ここを選ぶしかなかったのだから。
「すごい……」
彼女が呟く。視線の先には、枝垂桜のような弧を描く花火があった。同時に幾つも咲いては散っていく。ゆっくりと迫ってくる金色の火花に、その奥の黒い夜空に、吸い込まれてしまいそう……なんて、少し詩的なことを思った。
最初のコメントを投稿しよう!