八月十三日

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   ***  そのあともぽつりぽつりと会話をしながら僕らは歩いた。途中で何度か、灯りの点いた提灯を提げた人たちとすれ違った。僕らと一緒で、この時間に先祖を迎えに来ていたのだろう。すれ違う度に僕が「今のは誰」と確認するので、途中で理菜に「いちいち聞くな」と怒られた。  うちの墓は廟所の中でも割と目立つところにある。そこへ着くと、今日は綺麗な花が挿してあった。 「昨日さぁ、父さんと墓掃除したんだけど、もう大変! あっついし雑草すんごい生えてるし」  ということは、花はそのときに理菜たちが供えたのか。  傍らで父さんが、ポケットからライターを取り出している。ようやくうちの提灯の出番だ。  蝋燭に火を灯して、提灯の蛇腹を広げる。 「やばっしゃいませ」 「やばっしゃいませ」  お盆のときにしか使わない、迎えに来たことを知らせる言葉だ。「いらっしゃいませ」が訛ったものだろうと、僕は勝手に思い込んでいる。 「やばっしゃいませ……さぁ、行こうか」  父さんの静かな号令で、僕らはゆったりと踵を返した。灯りを得た提灯が、それに合わせてゆらりと揺れた。
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