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捨てられた子
時は大正、大阪の郊外の【松の家】と言う孤児院に1人の赤ん坊が来た。朝になって院長が玄関先に捨てられていた赤ん坊を見つけたのだ。
その子は男の子で【景一】と一筆書かれていた紙が入っていただけだった。
「この子は景一か」
院長の名前は松高育造。名字がなかったため【松高景一】と役所に行って届け出を出した。
12歳になったら大抵は奉公に出していた。男の子はお金持ちの家へ雑夫、商人の丁稚、女の子もお金持ちの家へ女中として奉公に出された。また、子供に恵まれない家庭に養子に出したりしていた。
景一は6歳になって、畑仕事を毎日していた。魚の行商にかり出されたりもあった。
貴賓会館の調理場に魚を届けた時だった。料理長が景一にごほうびをくれた。少し固いけど、パンだった。
「坊主、いつもチビなのに一生懸命だからごほうびだ」
「ありがとう。これ何?」
「パンだ。西洋の主食でな、日本では上流階級の人が食べている」
「へえ~どうやって作っているの?」
「おいおい、それは企業秘密だ」
一番仲のいい孝介にこっそり半分分けて隠れてパンを食べた。
「うまい!」
孝介は思わず口にした。
「だろ?どうやって作っているんだろう?」
景一は気になってパンの味が忘れられなくて、魚を売りに行く時は用事がなくても貴賓館を覗きに行った。
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