捨てられた子

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貴賓館の料理人たちが忙しそうに働いていた。なにやらいい匂いがした。パンの焼けた匂い。 景一は試食している料理人に釘付けになった。 「おいっ!何しとるか!?」 小麦粉を運んでいる男が後ろから怒鳴り、景一は怯えて逃げて行った。 それからも懲りずに貴賓館の調理場を覗きに行っていた。 あのパンはどうやって作るのか、好奇心に晒された。いつも覗きに行った時間にはパンが焼き上がる。 ある日、魚を担ぎながら一番に貴賓館の調理場を覗きに行った。パンは成型して焼く前でオーブンに入れたタイミングだった。いったい、何時からパンを作り初めているのだろうか? 「おいっ!またお前か!?何しにきたんや!?」 この前の男だ。景一はモジモジしながら正直にパンの出来上がるところが見たいと話した。調理責任者の矢浪も出てきて、景一の様子を見ていた。 景一が魚の行商の合間に貴賓館の調理場を覗いていたことは気付いていた。 「坊主、名前は何て言う?どこから来た?」 「松高……景……一……。松の家から……」 孤児院から行商として働きに出ている子かと思うと、同情したのか魚を全部買ってくれた。 「矢浪さん?今日は魚料理なんて……」 「メニューを変える。ムニエルを作る」 夜食の献立を変えてまで、景一の魚を使ってくれた。
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