捨てられた子

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景一は怖くなって、貴賓館の調理場を避けるようになって、次は魚を担ぎながら懲りずに匂いに誘われて西洋菓子店を覗いていた。 オーブンからパンとは違う何かが出てきた。なんと香ばしい。 孤児院に戻ると院長の育造に呼ばれた。貴賓館の料理人の矢浪が来ていた。 「景一、お前は毎朝貴賓館の調理場を覗きに行ってたのか?」 景一は正直に黙って頷いた。矢浪が苦情を言いに来たと思い、育造に叱られる覚悟ではあった。 「明日から魚の行商は他の子にやらせる。お前は明日から貴賓館の調理場で下働きしなさい。ちょうど人手が欲しかったそうだ」 景一はホッとした。しかも、毎日調理場に入れる。矢浪は景一の興味深そうな眼差しに打たれて育造に懇願してくれた。 「景一、本当はまだ小さいけどお前さんの熱意には負けた。まずは厨房の掃除やら、洗い物など雑用からだ」 「ありがとうございます!僕、一生懸命働きます!」 そして翌朝、3時から厨房の掃除やら料理人の雑用をした。まだまだわからないことだらけ……幼い景一には厨房の仕事は無理だったかもしれない。しかし、特別扱いはしなかった。容赦なく薪割りもやらせられた。子供の前で先輩が平気で後輩がしくじったら蹴りを入れたり、器具を投げてぶつけたりしていた。一番荒々しい瀬尾の怒鳴り声が調理場に充満していた。
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