二将

1/1
前へ
/35ページ
次へ

二将

「そんなこと言える状況か?」  モグラの魔物であるミロンが言う。  グィードの乗っていた魔装は破壊され、自身も満身創痍だった。 「くっ……」 「何かあれば知らせろと言ったじゃないか」 「ボリスが奇襲をしかけてきたのだ。伝える暇はなかった」 「ふーん。奇襲を受けたから負けたと?」  ミロンはグィードの同盟者であった。ボリスと人間が手を組み、七将と敵対したことを知り、魔将も共同してボリスと戦うことにしていたのである。  だがグィードはプライドが高く、はじめから同盟者をあてにせず、独力でボリスと戦うつもりだった。そのため、ボリスら連合軍が奇襲をしかけてきても、あえてミロンに救援を要請しなかった。 「あれは魔将?」 『違いない。かなりの魔力を持っている』  アンリは二人以上の魔将と戦うことになるかもしれないと、言われていたことを思い出す。  戦争が早まったおかげで、他の魔将軍と戦わずに済んでいたが、その親玉がついに現れてしまったのである。しかし、配下を引き連れていないのは幸いだろう。 「グィード、そんな顔をするな。助けに来てやったんだ、感謝ぐらいしろ」 「ぐっ」  グィードは悔しさに歯を食いしばり、歯茎からは血が流れた。 「せっかくのオモチャが台無しじゃないか」  ミロンは面白そうに巨大な爪で、動かなくなった魔装をグィードから引き剥がしていく。 「……油断するな。あの魔神、勇者が使っていたものだ」 「勇者?」 「あの鎧、間違いない。我が父ライノセラスのものだ」 「へえ。じゃあ、あのオモチャが、魔王様を倒したと?」 「中身は別物だ。たいしたことない」  そのやりとりを聞いて、アンリはむっとする。 「たあっ!!」  敵相手にいちいち名乗ることもない。アンリはミロンに空中から斬りかかった。  だがミロンは地面に潜ってそれを回避する。 「やっぱりモグラ……」  これは苦戦することになるとアンリは思った次の瞬間、ミロンが飛び出し、魔神に切りつけてきた。 「つっ……」  足を切られたが傷は浅い。  すぐに地面を離れて、距離を取る。  左腕はグィードとの戦いで使い物にならない。右手の爪を伸ばして、地面のミロンと対峙する。  空にいれば敵の攻撃を受けないで済むが、それでは敵を倒せない。アンリは地面ごと吹っ飛ばすかと考えるが、加減できる自信がなかった。 「死ねいっ!!」  背後から殺気。  グィードが殴りかかってきていた。アンリはかわせず、地面にたたき落とされる。 「ぐうっ……!」  アンリは魔神をすぐに立ち上がらせ、右方向に転がった。地中からミロンが飛び出してくるのをギリギリで回避した。  そこに再びグィードが迫る。アンリは右手の爪で受けた。 「我が父の仇!!」 「何をっ!!」  アンリは思い切りグィードに蹴りをいれる。体格の小さいグィードは吹っ飛ばされ、向かいのマンションに激突する。  グィードはだいぶ弱っていて、今なら簡単にあしらえた。 「あだっ……!?」  魔神が突然バランスを崩して倒れた。ミロンが地中から魔神の足をつかんだのである。 「このっ!」  ミロンめがけて爪を突き刺すが、ミロンはすぐに地面に隠れてしまう。 「どこっ?」  ミロンの出てきたところを返り討ちにしようと、気配をうかがうが地中の様子はまるで伝わってこなかった。  背後に出てきたミロンが爪を突き立てる。魔神は振り向きざまに切りつけるが、ミロンはもう潜っていた。 「遊ばれてる……」  アンリが地面をキョロキョロと見回していると、再び背後を取られてしまう。  しかしそれはミロンではなく、グィードだった。 「うおおおおおっ!」  グィードは残った魔力を使って巨大化し、魔神を羽交い締めにする。 「やれ、ミロン!」 「おう!」  ミロンが魔神の前に飛び出してくる。 「は、放してっ!」  アンリはグィードを振り払おうとするが、片腕では巨大化したグィードになすすべがなかった。 「ふっふっふ。魔王様を倒した魔神も、この俺様にかかれば」  鋭くとがった両爪を魔力で怪しく光らせ、ミロンはのしのしと近づいてくる。 『早く振りほどけ。死ぬぞ』 「分かってるってば!」  アスラにせかされ、アンリは魔力を魔神の全身に駆け巡らせる。 「ミロン、早くやれ! これ以上は持たぬ!」  グィードは持ちうる力を振り絞りながら叫ぶ。 「女神、お命ちょうだい!!」  ミロンは強烈な突きを魔神の胸にめがけて放った。 「南無三!」  アンリは右足を振り上げていた。ミロンの爪が足に深々と突き刺さる。 「なにっ!?」 「まだだっ!」  グィードに締め付けられていた翼を勢いよく広げ、グィードを弾き飛ばす。左足でミロンを蹴飛ばして転ばした。  そして、上空へと離脱する。 「女神め、悪あがきを!」 「こんなところでやられるわけにはいかないから!」  アンリは地上のグィードとミロンを見下ろす。 「アスラ、まとめて吹っ飛ばすよ!」 『できるのか?』  魔法弾で吹っ飛ばせることは当然分かっている。その勇気がアンリにあるのかと問うものだった。 「やってみせる」  アンリはつばを飲み込む。  四天王の力を持つ魔神はまさに最強だ。その魔法弾の威力は底知れない。うまく力を制御しなくては、また王都ごと吹き飛ばすことになってしまうだろう。  心臓が早鐘のように打っている。核兵器のボタンを押すような心地だった。戦略目標を一撃で消滅させられるが、大量破壊に対する非難を受けなければならない。 「おびえるな、自分を信じろ……」  魔神は核兵器ではない。すべてアンリが操り、力加減もアンリ次第だ。  アンリは魔力を右腕に集中させる。 「やめろおお! また街を破壊する気か!!」  グィードが叫ぶ。当然、街のことはどうでもいい。ただ自分の命を救いたいがための方便だ。 「この世には神も仏もいない……。だから」  アンリは大きく振りかぶる。 「私を信じるっ!!!」  大きく膨れ上がった魔法弾を投げ放つ。魔法弾はグィードとミロンの間に向かって直進する。 「死にたくないっ! 俺はこんなところで死んでいい存在ではないのだっ!」  グィードは逃げようと、足をばたつかせながら遠ざかっていく。 「情けない奴」  ミロンはしばらくグィードを眺めていたが、そのまさに必死な顔を見て、地中に逃げる判断をした。  魔法弾が着弾する。大爆発が起き、地面がめくれ上がっていく。 「魔神めえええ……!」  グィードは光に包まれ、塵となって消えていった。  衝撃波がやむと、そこにはやはり大きなクレーターができていた。しかし、前ほど大きなものではない。廃墟の中にまた穴が増えただけだった。 「やった……」 『グィードの魔力は消えた。ミロンは……逃げられたな』 「そう……」  魔神はゆっくりと降下し、地面に着地した。魔力切れだ。  追撃はできない。しかし、魔将を撃退できただけで十分だろう。 「どうよ、アスラ」 『む? 何がだ』 「私だってやれるでしょ?」  アンリは、アスラことアフラマズドに問う。 『好きにしろ』  アンリは自分でも魔将を倒せることを証明し、アフラマズドはやれやれという感じで答えた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加