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花が咲いていた。
白い花だった。
その真ん中で、風に煽られた彼女が帽子を抑えながら振り返る。
名前を呼ぼうとして、口を動かす。確かにかたどってるはずの唇からは、声が出ない。
「またね」
彼女が笑って手を振る。
「待って」と叫んだはずの、その声も出ない。
置いていかれた僕は泣いた。
その泣き声だけが、響き渡る。
ふと目を開ける。白い天井と眩い光が目の前を覆う。
半身をゆっくり起こして、手を伸ばして自分の顔に触れると涙のあとがあった。
ああ、また、だ。
また、同じ夢を見た。
あれは僕の手をすり抜けていった、叶わなかった恋だ。
あと5分だけ。
目を閉じる。夢の続きが見れればいい。
そんなこと、有り得はしないのに。
ああ、せめて。
あの花の名前を僕は知りたいと、目を閉じる。
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