白い花

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
花が咲いていた。 白い花だった。 その真ん中で、風に煽られた彼女が帽子を抑えながら振り返る。 名前を呼ぼうとして、口を動かす。確かにかたどってるはずの唇からは、声が出ない。 「またね」 彼女が笑って手を振る。 「待って」と叫んだはずの、その声も出ない。 置いていかれた僕は泣いた。 その泣き声だけが、響き渡る。 ふと目を開ける。白い天井と眩い光が目の前を覆う。 半身をゆっくり起こして、手を伸ばして自分の顔に触れると涙のあとがあった。 ああ、また、だ。 また、同じ夢を見た。 あれは僕の手をすり抜けていった、叶わなかった恋だ。 あと5分だけ。 目を閉じる。夢の続きが見れればいい。 そんなこと、有り得はしないのに。 ああ、せめて。 あの花の名前を僕は知りたいと、目を閉じる。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!