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きらきらした雑踏の中、まるで同じページで時が止まっているようだった。だけれど静かに、たしかに、時は進む。あと三十分で花火が始まる時間だ。二人はそっと人混みをかき分け裏道へ進んでいく。少しでも人の少ない方が見やすいから、とつづりが提案しみどりが見つけ出したのだった。
「よしよし、間に合ったね」
みどりはふー、と息をつきながら言う。
「うん、ありがとう」
つづりが返事をする。ひとときの沈黙が訪れる。だがそれは居心地が悪いものではなく、澄んだ空と夜のしんとした佇まいと夏のざわざわとした空気が溶け合いどこか懐かしいものだった。
「ねぇ、今日はありがとうね」
つづりがそう言った時、ドン!という音とともに華やかな光が空へ浮かんだ。二人は空を見上げる。打ち上げ花火がちらちらと散りそしてまた打ち上がる。綺麗だね、そう言おうとつづりの方へ顔を向けたみどりはふ、と息を止める。花火の魔法の話を聞いたからだろうか、つづりのその線の通った横顔はともすれば繊細で儚く、ふとどこかへ行ってしまいそうだった。みどりはきゅっと胸が締め付けられるようで、そして泣きたいような気持ちになった。花火ではないけれど、でも、だからこそこの一瞬一瞬を、これからの時間を大切にしたいと思った。つづりは夢でも魔法でも散っていくわけでもないのだから。
「やろうね」
みどりは無意識のうちに言葉を紡ぎ出す。
「?」
つづりが首をかしげる。
「線香花火。やろうね」
「…うん」
ゆらゆら、ことり。
つづりの心を表すかのようにラムネ瓶の中のビー玉が静かに揺れた。
ー終わりー
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