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「お祭りって魔法の国みたいだよね」
「え?」
突然の問いかけにみどりはそう答えるしかなかった。
ある夏の日のことだった。その日は年に一度二日間に渡って開かれる夏祭りの日で、フィナーレには花火大会が行われる。二人の少女もその夏の情緒を味わいにやってきていた。
一人はつづりという名前だった。毛先がゆるくカールしたミディアムボブに、ややたれ目のくりっとした目と鼻筋の通った透明感のある可愛らしい少女だった。シンプルな丸襟の半袖ブラウスと青空色のスカートがそれらをより引き立てている。
もう一人はみどりという名前で、前下がりのショートヘアにまるいどんぐり眼が愛らしい、温かい、光を照らすような笑顔がよく似合う少女だった。こちらはTシャツにベージュのサロペットという出で立ちで、それらが自然とよく似合い彼女の飾らない人柄を表していた。
そんな二人は仲が良く、今日もこうして同じ空間をともにしているのだった。そして冒頭の会話となる。
「お祭りって魔法の国みたいだよね」
つづりがそう繰り返す。その声は鈴を転がしたように愛らしい。
「魔法?そうなの?たしかに屋台とか飾りとかきらきらして綺麗だけどさ…」
みどりがくるりとした目をゆっくりと瞬かせながら不思議そうに返す。つづりは空想的なところがあり、折々こういったことを口にする。みどりはその繊細な感受性が自分の軸を持っている気がして好きだったし、つづりの透き通る雰囲気とよく似合うと思っているのであった。
「それもある。私が思ったのはね、お祭りって立場も目的もばらばらな人が集まってるでしょ?だけどその枠に関係なくおのおの楽しんでる。そうやってすべてをごちゃまぜに受け入れてきらきらで包み込んでしまう、そんな空間は夢のような魔法の国だなぁと思ったの」
つづりはそう言うとラムネを一口飲んだ。ちらちらと泡の粒がきらめきあう。
「そっかぁ。そう言われるとそうかも。すべてを受け入れるか。たしかにそれって簡単なようで難しいし、それをやってのけるのは魔法みたいな国だよね」
みどりはヨーヨーを弾ませつつそう答える。ぱしゃん、ぱしゃん、と音が鳴る。
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