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先生
月末には、夏休みに入ろうかという夏の暑い日。
「先生!」
昼休みが終わって職員室から教室に戻ってきた俺に向かって、真理子が血相を変えて走ってきた。
「どうした?何かあったか?」
その真剣な顔に驚いて尋ねる。
5年生の彼女は俺の腰にドンとぶつかって、そのままぎゅっと抱き着いた。思わず背中を抱きしめる。
「どうした?」
再び問うと、真理子はそのまま顔をあげた。
「大変なんです!難波ちゃんの体操帽子が見つからなくて」
言われた児童の方に目を向ける。難波妙子は眉を下げて困ったようにきょろきょろとしていた。
5年生にしては大人びた体。身長も160㎝近い。ショートカットの髪がふわりと揺れた。
「先生……」
「帽子ないのか?」
「そうなの……」
「最後に見たのはいつだ?」
「えっと、昼休みに着替えて教室に戻ってきたときはあったの。それで引き出しの中に入れて委員会に行ったの」
「そうか、ちょっと待ってろ」
俺は、妙子の机の周りを探す。掃除のために教室の後ろに集められた机をよけながら机にたどり着き、道具袋の中を探す。
鉛筆や消しゴムといった小さな落し物は、色鉛筆やのりが入っている道具袋や図書の本を借りるブックバッグの中に入っていることが多い。
それをごそごそとあさる。
妙子も真理子も、他に噂を聞きつけてきた生徒たちも不安そうにそれを見守る。そんな彼らの視線を背中で感じながら、見つかってくれと祈った。しかし
「ないな……」
机の横にはないようだ。きょろきょろと近くの床も見たが見当たらない。
「先生、やっぱりない?」
真理子がきゅっと俺のジャージの裾をつかむ。心配そうに上目遣いで見上げてきた。隣にいる妙子は涙目で今にもこぼれそうなそれを目にいっぱいためている。
「ちょっと手伝ってくれ」
俺が机を移動させようとしているのに気が付いた幾人かがわっと集まり、妙子の周りの机を移動させる。妙子の机を取り出して、引き出しを開けた。
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