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「引き出しの中にはなかったよ」
「引き出しの奥は?」
「奥?」
引き出しを取り出し椅子に置く。
「引き出しを取った机の中に入っていることもあるんだよ」
何も入っていない机の中に手を入れ、体を倒して中を覗き込む。
低学年だと適当に引き出しに突っ込んだ結果、机の奥底にプリントや給食のパンがぺしゃんこにつぶされて入っていることが多くある。
高学年にもなるとその回数は減っていく。
まさかあるわけないよな、と思って見てみたが、予想通り見つからなかった。
俺は曲げていた腰を伸ばして、ふうと息を吐いた。
「……また……か」
妙子や真理子が、先生……と見上げる視線を感じながら。
掃除のチャイムが鳴る。
「掃除時間が始まります。静かに掃除を始めましょう」
放送委員の児童の声がする。
「仕方ない、みんな掃除をしながら探してくれ」
「はーい!」
普段のしつけが行き届いているこのクラスの子どもたちは基本素直な子どもが多い。俺が頼んだことはしてくれる。だから掃除をしながら帽子を探すということもしてくれるだろう。
そして、これには別の目的もあった。
子どもたちが自分の仕事をしているのを見ながら、自分も教室の箒をかけていく。手は動かしながら、目は子どもたちをちらちらと伺う。
みんなおしゃべりせずにてきぱきと掃除をしていく。高学年になれば教師が声をかけなくても掃除ができる。そうなるように5年間かけて教育していくのだし、俺も4月から子どもたちを育ててきた。だからこそ、信じたくはないし、そうであってほしいとは思わない。
けれど。
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