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辺り一面に咲く向日葵畑には、私はもう訪れ
ることはできない。
君が可愛いと言ってくれた白いワンピース
も、君がくれた向日葵模様のピンも着けるこ
とはない。
だって、それを身にまとってしまったら、君
のことを思い出して、泣いてしまうからだ。
「会いたいよ」と何度も口に出して、涙は思
い出すたびにあふれる。
好きだったから、この先の事だって考えて
た。
将来は、一軒家を買って一緒に住む話だった
り、子供の話だったり、全てが当たり前に進
むと思っていた。
それが不幸の事故で、最愛の彼を亡くし、ど
ん底へと落とされた気分だ。
私は、夕方一人娘を残し、何も持たずに家を
出た。
夕焼けが眩しいくらい輝いて見えて、今の私
の人生とはまるで正反対な明るさに感じた。
それは、温かい色ではなく、冷たく凍った氷
のような人生だ。
「ここから、飛び降りたら貴方のところへ行
けるのかな?」
私は、少し身を乗り出すように橋の下を眺め
ていた。
愛する人がいない世界で、私は生きていけな
い。
だからー。
私は、空を見上げて、目をつぶり、体を下に
しようとしたその時。
"お母さん"
「!?」
私は、目を開け、態勢を整え、辺りを見渡し
た。
急に、娘の声が聞こえた気がしたからだ。
少し泣きそうな声で、私の名を呼ぶ声を…。
愛している人がいない世界…、それは、私が
死んだらあの子はどうなるの?
あの子には、私しかいないのに、それが無く
なったらあの子は独りぼっちになってしま
う。
私と同じことを、あの子にも背負わせてしま
うの…?
私は、無我夢中で家へと向かった。
息が切れても、足がすくみそうになっても走
らなくちゃ。
私は、その時娘の事を思った。
自分のことばかりで、私はあの子のことを考
えようとしなかった。
家の扉を開けると、そこには娘が床にへたり
込んだ状態で泣いていた。
「お母さん、お母さん。」
何度も何度も、私の名を呼んでいた。
こんな呼んでいたのに…、直ぐそこに、光は
あったのに、私は何で気づかなかったんだろ
う…?
私は、娘を強く抱き寄せた。
そして、貴方にもう一度会えるその時まで、
この子を守り、育て、笑顔でいる事を心の中
で誓った。
私は、この先も娘に笑顔でいてほしいから。
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