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プロローグ
どうしてこんなことになったのだろう。
もう痛みも感じない。
目に映るのは亡霊のように立つ、全身黒ずくめの男。
あのお金はお父さんが定年まで働いて貯めたお金。二人でこれから余生を楽しもうねって……。行きたかった北海道旅行もやっと実現する。北海道なんて二泊三日じゃ到底回れない。二週間くらいかけてのんびり二人でって。
まさかこんな風に人生が終わるなんて思ってもみなかった。私の下にいるはずのお父さんはもうピクリとも動かない。さっきまで苦しそうな息づかいが聞こえてたのに。
だんだん視界がぼやけてきた。
男は私を覗き込んだみたいだったけど、もうそれも分からない。
遠くで、かすかに玄関のドアが閉まる音がした。
出て行った。もう十分手遅れなのに、ホッとした。
なにも見えない。
私は静寂と暗闇に包まれた――。
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