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誉田の背中に
「たから……」って呼んでみる。聞こえても聞こえなくてもどっちでもよくて、呼んだ。
ぱっと振り返った誉田が
「何? 今度はそう呼ぶことにした?」
「呼んでみただけ」
「そっか、なんだ。残念」
……残念?どういう意味だろ。
「……清夏」
不意に名前を呼ばれて動揺する。
「え」
「って、可愛い名前だね」
「あ、ありがとう」
「夏生まれ?」
「う、うん、そう。8月」
「何日?」
「8日」
「はは、末広がり……」
「え?」
「八って漢字で書くと末広がりだろ?縁起がいいっておばあちゃんが言ってた」
ああ、そう。おばあちゃんね。長寿の家系って言ってたな。
「そうなんだ」
「……お祝い、しないとね」
「……」
「えーっと、清夏は何が欲しいの?」
は、え、名前……。
「か、彼氏……」
って、何を言い出すのか。私よ。
「そうか、恋がしたいんだもんね。それはそうか。片思いより、恋人のがいいね。ちょっとそれは誕生日には間に合わないかもね。だから……俺で我慢して」
すんなり、受け入れてくれたけど。
ん?俺で、我慢、して?
何を?え、プレゼントを俺?いや、ないない。過ごすのが?
ちょっと、わけがわからない。
どうやら、足も止まってしまっていて、ものすごく怪訝な顔をしていたらしい。
「はは、清夏、すごい顔。急ご、真っ暗になったらダメだからね」
……何だろう。校門を出てからずっと、
とにかく、ものすごく戸惑う。
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