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「清夏、こっち。裏から入れるから」
……入る?中に?
入って何をするのか、何をされるのか
ぬるい風が吹いてきて、後ろの門が、ギィと鳴る。その音に身を縮めた。
怖い……。
「……清夏?」
もう一度、呼ばれ、ハッと顔を上げた。
ここに一人で立っているのも怖い。仕方なく呼ばれるまま反対側の誉田のところまで向かった。
私がそこへ到着すると、「ああ、そうか」と言った後、私の手を取ると、そのままくるりと前を向いた。
「ここ、持ってて」
その手を自分の腰あたりへ持っていき、私は言われるがまま、誉田のシャツ……だけじゃ心もとないのでシャツとズボンをガッツリ掴んだ。
「ふっ、まあ、いいや」
誉田はゆっくり進む。少し私に振り向くと人差し指を綺麗な形の唇に添えて、声を出さないよう指示した。
暗くなり始めた外の方がまだ明るいくらいの室内は思ったより、傷んではいなかったが、淀んだ空気の匂いがした。以前住んでいた人の匂いも加わって、誰かいてもおかしくない気がして、ますます手に力がこもってしまう。
「……いた感じはするな」
小さく誉田がそう呟いた。
「ひっ」声が出そうになって、私は慌てて空いてる方の手で口を押さえた。
夏の熱気がこもった室内では、夕方とはいえ数分で額を汗が流れる。
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