1.ペア

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夏休みに入る前、先生の言った 「しっかり思い出作れ」という言葉は私の憧れをひどく刺激した。 「一夏(ひとなつ)の思い出が欲しい」 陽葵がそう言うと、聡子さえ「……うん、自分が変わるくらいの……」と言って 私と陽葵は顔を見合わせた。私も、 「私も……恋がしたい」と言ってしまった。 二人は茶化すことなく聞いてくれていた。 「一夏の思い出……」 「作っちゃおうか」 「なんか、響きが卑猥」 うん、アバンチュール的響き。特に陽葵が言うと。さすがに言えないけれど。 「いやいや……でも、そうだね。聡子も清夏も進学でこれから勉強ばっかりになるもんね。この夏が最後のチャンスかもしれない」 そうだ、高校生活で経験したいこと。それは……恋だった。 「私は、誉田くんとデートがしたい。たった一回でいいから」 「私は、私らしくないことをしたい」 ずっと、頑張ってきたから。一回でいいの、聡子はそう言った。 私たちの真剣な表情に 「どした?」と日野くんがやってきて不思議そうにそう尋ねた。 えっと、私の『恋がしたい』っていうのは何か日野くんには聞かれたくないなって……聞いてないよね?チラチラと様子を伺ったけれど、心配なさそう。だって日野くんは陽葵しか見てないもんな。って確認出来ただけだった。知ってる。知ってたけど……。
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