今日も館はほくそ笑む

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誰かが言った。 そこに行けば素晴らしい出会いができる 赤い糸が手に入る場所であると 誰かが言った。 そこに行けばすべてを失う 赤い糸が捨てられた場所であると それは ある街の、ある端っこにこっそりとそびえたつ、ある館 「クギャシエの館」 ピーポーピーポー 「おい、熱中症だってよ」 「またかよ、今日で三件目じゃね? 」 ウーウー 「あっちで自殺だって」 「またなの? 勘弁してほしいわねぇ」 自分ごとのような他人事 そんな言葉が飛び交う街の片隅 私はただ椅子に座っていた。 別に、だからなんだと なにも言うことはない。 私は仕事をしているだけなのだから。 今日も街の音はよく響く 怒号に悲鳴に足音に 冷気に熱気によどんだ空気 今日は一段と楽しめそうだ。 私は会社をクビになった。 お前は人の心がわからないのか?と 私はしゃべるのが苦手だった。 今の時間は15時半過ぎ ここに時計はないが キャッキャウフフな学生たちの声が聞こえる 私に恋人はいなかった 考えたこともなかった。 わけではないが単純にその雰囲気からか 周りに人がいなかった 会社をクビになった後私は自分で仕事を始めた。 片隅にテントを張って看板を立てた。 もちろん許可はもらってる。 場所は人目のつかないところ、人が良く見える場所にした。 べつに、人の入りなどどうでもよかった 人を見るのが好きだった。 それしかすることがなかった。 とある日 バサッとテントが開いた。 「こんにちは。やっていますか?」と。 「はい、やってますよ」 私は答えた なんとも気の弱そうな子だった。 テントの外から甲高い笑い声が聞こえる。 「行った、行った。金の無駄ww」 「無駄って言わないの。寄付だよ寄付w」 うるさい声だ 「あの…」 「え?あぁごめんね、ここは似顔絵を描いてあげる場所」 「はい…。見て入りましたので、看板」 「そう、ありがとね」 「みさき~? 」 テントの外から声が聞こえる。 「な、なに? 鈴原さん」 「私たち待っとくのめんどいから近くのゲーセンいるからぁ  終わったらテキトーにきて」 「テキトーとか不親切すぎw」 「わ、わかった」 「んじゃよろ~。罰ゲームなんだからさぼんなよ」 「うん…」 「www。でもさぁ、…。」 甲高い声は街の騒がしい音に同化していく 「ごめんなさい。」 「えっと、みさきちゃん?だっけ。なんで謝るの? 」 「いや、その…。寄付だとか、罰ゲームだとか」 「…ねぇ聞いてもいい? 罰ゲームって? 」 「その…、適当に売れてなさそうなお店に行って、お金を払う…。」 「そう。だから謝ったのね? 」 「ごめんなさい。別にお姉さんのお店が売れてないとかそんなんじゃなくて…」 「あなたは言ったの?」 「え…?」 「謝らなくていいよ。人が入っていないのは本当のことだしね。  それに私はあなたの口からきいた覚えはないもの」 「いや…でも!」 「私はあなたの口から"やっていますか"と"看板を見て入った"  その言葉しか聞いてない。普通のお客さんとおなじなのよ」 「でも…」 「でも、じゃないの。私が良いって言ってるんだから良いのよ。  はい、この話し終わり…ね?」 「…。はい!」 彼女はニコッと笑った。 「よろしい!」 腰に手を当てて笑い返した。 別に しゃべるのが苦手。 そんなことは今まで考えたこともなかった それなりに話せてたし。 でも働くようになって意識させられた 初めてこのテントに人が来たのは 暑い、ほんとに暑い日だった。 ただただ涼みに来ただけの ばりばり社会人っぽい中年の男の人だった。 「お! ここ涼しいな失礼」 「あ。いらっしゃいませ」 「ん? あぁここお店だったのか。すまない気が付かなかった」 「いえ、別に。始めたばかりですので」 「ほぉ。何の店なんだ?」 「ただの似顔絵です」 「おー。最近じゃそんなとこにゃいかないからなぁ。  懐かしいし、描いてもらおうかな」 「よろしいのですか?」 「ん?ああいいぞ」 「ありがとうございます」 そう、はじめての人 どこにでもいる しわはなく、やせ細っていて、 目がおおきく、髪がながい。 そんな人… 「お待たせ致しました」 「お? できたか、どれどれ」 「どうぞ、お飾りください」 「…。おい」 「はい。なんでしょう」 「お前!ふざけてんのか?」 ……。 ………。 「さて、みさきちゃん」 「はい!」 「似顔絵どうする?」 「え?描いてください」 「そ。いいんだね?」 「はい、楽しみです」 「わかった、じゃあ」 「?」 「ありがとうございます」 意味はない。 誰もわからない。 何でそうしてるかもわからない。 ただそう見て ただそう描くだけ 「はい、おまたせしました。」 「あ、終わりました?」 「うん。どうぞお飾りください」 「え?これ…」 わたしの横には大きな箱が置いてある。 その中には、 折れたり折れていなかったり 塗りつぶされていたりされてなかったりの 色紙のような残骸が入っている。 私の絵を見た人は、 何も知らずに見た人は言葉を失うことが多い。 それは感動をしているのか、怒っているのか。 だからわたしは問い、描けをわたす。 ……。 「お前!ふざけてんのか?」 「いえ。真剣に描かせていただきました」 「じゃあ、なんでこうなるんだ? だれだ、こいつは」 「お客様です」 「ふざけるなよ。なんで"しわがなく"て、"やせて"て、 "目が大きく"、"髪が長い"んだ!」 「私にはそう見えますが」 「何言ってんだ?まったくの"逆"だろうが。  これじゃあまるで髪が少ないことや、  太ってるのがコンプレックスみたいじゃないか」 「申し訳ございません。それでは道具をお貸しいたします。  そして私の横には都合よく廃品置き場がございます。  どうぞご自由にお飾りください」 「まぁ、描けといったのは私だから金は払う。が、  これはお返しする」 机の上にお金。ガコッと箱に顔を投げ入れる 「ありがとうございました」 ある日は どんなミユちゃんも大好きだよ。とか テントの中でもべったりな そんなカップルのミユちゃんの 似顔絵を描いた。 なんでお前が怒るんだろう。 「こんなのミユちゃんじゃない」と。 「なんでこんなにブサイクなんだ」と。 「どうぞ、お飾りください。」 ミユちゃんと呼ばれてた子は ただ、私に笑いかけ"彼氏"の顔を黒くぬり、 "男"を置いてテントを出て行った。 私は人の心がわからないのか。 どうすればわかるのだろう。 だから私はわたしを知るために自由に気ままに絵を描く。 「え?これ…」 「…。」 「…。」 「みさきちゃん。大丈夫?」 「あっ、ごめんなさい。大丈夫です」 「そう…。じゃあみさきちゃん」 「はい」 「ここにはいろんな道具がある。  私の横には都合よく廃品置き場がある。  だからあとはご自由にお飾りください」 「…。この絵。すごくかわいいです。それにとても  自信に満ち溢れてるようなそん感じがする。」 「……。」 「でも、これは私じゃない。これは私のもとにはいらない。  この未来にすがっちゃうかもしれない。だからペンを貸してください」 「どうぞ」 キュッ、キュッ 「でもだからこそ、この未来のために頑張ります。なので  ここに飾っていてもいいですか?」 「ふふ。どうぞご自由にお飾りください」 バサッ 「そうだお姉さん。この館に名前つけてもいい?」 「え、名前?館名なんて興味ないから別にいいけど」 「やった。じゃあクギャシエの館。意味は逆を描く絵師がいる館」 「??」 「"ぎゃく"と"えし"を逆に読んだだけだよ。またねお姉さん。ありがとう」 「ありがとう」 さて 今あなたの前には私という鏡があります 同族はお好きですか。 同族は嫌いですか。 あなたの中のわたしはそこにみえますか。 今のわたしが見えていますか。 私の館はわたしを自由に描きます。 どうぞお気になさらず生きましょう。 自分に正直に。 ある街の、ある端っこにこっそりとそびえたつ、ある館 「クギャシエの館」 その館にはずっと置いてある絵があります。 みさきと小さく書かれた似顔絵が。
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