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カシーン、カシーンと一秒毎に小さな丸い硝子の下で音が鳴る。金属の空間に深く響き渡る音を、わたしの耳が拾い集め、その中に閉じ込められた記憶を辿る。
もっと耳を澄ませば、歯車が回る音まで聞こえそうだ。
いくつもの歯車が噛み合って作り出すその精緻な動きが、あの日あの時も正確に刻まれていた。
時計はその小さな空間に、貴重でかけがえのない時を閉じ込めた。
わたしは誰もいない図書館の片隅で、机に置いた懐中時計に左耳を寄せ、その音に耳を澄ませている。
右の耳にかけていた髪がはらりと鼻に落ちてきてくすぐったい。そっと目を開けるとこちらを見ていた男の子と目が合った。
ゆっくりと時計から耳を離して体を起こす。
窓から差し込む光は空中に舞う埃を浮かび上がらせ、まるで水の底に沈んでしまったように視界がぼやけた。
髪を耳にかけて、ずれたメガネを鼻の上に押し上げる。
書架の間の暗がりで、わたしを見ていた人影はもういなくなっていた。
きっと幻を見たのだ。さっきまで見ていた思い出のせいで。
わたしが時計の音を聞いていた短い時間の間に、思い出の中の彼は数年を駆け抜けた。
間に合わなかったほんの数十秒。
目の前で行ってしまったバス。
あと一問で合格していたはずの試験。
待ち合わせに遅れたために入れなかった映画館。
彼が誰かの為に使った時間。
ほんのあと5分。彼に時間を返すことができたなら。
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