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ジゴワット博士のディストピア散歩
銀ラメの全身タイツを着た老若男女が夢遊病者のように歩いている。オープンカーから眺める街並みは、過剰に幾何学的でくどい装飾を割り引くと、20世紀の日常と変わりはなかった。
繁華街は買い物客で溢れ、公園のオープンカフェで人々が談笑している。
しかし、そこに目を凝らしてみれば異常がクローズアップされる。
コーヒーカップの底には豆粒が一つだけ転がっている。みずみずしいサラダボウルやプリプリしたエビカツサンドは退色して作り物っぽい。
会話の内容に耳を傾けると、ひたすらに数字を読みあげていて、会話として成立していない。そして脈絡のない喜怒哀楽を挟み込む。
その顔は無表情だ。ただ、席を蹴ったり、テーブルに突っ伏したり、行動だけで表現している。
「こりゃどういうことかね、君」
変わりは果てた人々の様子に博士は度肝を抜かれた。
ロボットが言うには、思考が統制され、画一化した価値観が徹底されている。感情は呼吸と同じようなもので、精神衛生を維持するためにある。
文化活動は政府機関の量子脳が担っており、資源を全く消費しない仮想空間で芸術が試行錯誤されているという。
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