フォレストガンプの夏

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「お前、(ぬる)い仕事してるなぁ」 大学の先輩が、胡乱気な目を私に向けてくる。  そんな仕事を終えたばかりの私は、スポーツ愛好会の部長を務める先輩に呼び出され、今はバドミントンの相手をさせられていた。  スポーツ愛好会――気楽に何でも適当にスポーツを楽しむことを趣旨とするサークル。 「そうですね。うちのサークルと同じで――ねっ!!!」 スマッシュを決める。 「っしゃ、私の勝ち!ジュース驕ってくださいね」 快笑で自販機に目を向けた。 「何でだよ、これで一勝一敗だろ?」 「そこは男女差のペナルティってことで。あ、炭酸じゃない方でお願いします」 ぶつくさ言いながらも自販機に向かってくれる先輩の背を見上げながら、アルバイトの話に話を戻す。 「別の意味で苦行ではありますよ」 確かに激務とは程遠い。しかし、それは雇用側の責任である。 「で、何か社会勉強になっているのか?」 そこは肩を竦めるしかない。 「なぁ、お前、明日空いてないか?」 もしやデートのお誘いかと心持ち身構えた。 「特にないですけど?」 明日は月曜。プールは定休日だと彼も知っている。 「んじゃ、人員一人確保っと」 ま、そんな訳もない。  私などを相手にせずとも、彼が割とモテる男だと言うことを知っていた。 「え、嫌ですよ。何の話です?」 それに割と強引な男であることも知っている。なんせ、同郷のよしみというだけで、私はサークルに加入させられた口だ。 「知的障害を抱える子供の世話をするボランティアを頼まれててさ、人員が足りなくて困ってたんだ」 先輩は地域貢献に積極的に参加している言わば好青年であり、方々で顔が広い。他人に頼みごとをされて、無下に断る人では無かった。 「ええぇ、私はボランティア何て嫌ですよ。それは労働の搾取だと思っている側の人間です。第一に責任が持てない」 ハッキリと毒を吐く。ついでに買い与えられたジュースを突き返した。蓋を開ける前で良かった。 「知ってる。お前は薄情者って訳だろう?」 平然と頷く私に、ジュースを押し付けて来る。右往左往するジュースの行方は、睨み負けた私の手元に敢え無く残された。 「だからだよ。お前、ちょっとは苦労しろ。『若いうちは人の苦労を買ってでもせよ』と、偉人は言っている」 「や、そんな偉人に恩義は感じていませんし。自分事で常に手一杯ですよ」 「いつも余裕綽々で何処がだよ。それに、そんなに利得が欲しいなら、無いでもないぞ?」 先輩は尊大に腕を組む。 「何ですか?先輩が時給を払ってくれるんですか?」 「な訳ないだろう、この守銭奴」 小さく嘆息して彼は続けた。 「履歴書にも書けるし、就活の面接で好印象持たれるぞ?それに人脈もできる。何がきっかけになるかなんて分かんねぇだろう?お前の人生の中で、最初で最後のボランティア精神っつうの?見せても罰は当たんねぇよ」 先輩のこういうところは流石だと思う。 彼は将来の夢の望み通り『先生』に向いている。 「私、先輩が先生だったら、さぞや素直な生徒だったろうと思いますよ」 降参を示して、不本意ながらも参加を呑んだ。 「っしゃ!マジで助かる。青少年自然村で一日中遊ばせる予定だから、結構ハードだと思うけど、よろしくな」 「ま、まさか、キャンプじゃないでしょうね?」 協調性も然りだが、飯盒などもまるで自信がない。 「アスレチックで遊ばせるだけだって。でも、怪我をさせないように重度障害の子は一対一で見守ってやらないとならない」 知的障害がどういったレベルのものか知らないが、小学生のお子様には違いない。何とかなるだろうと、私は曖昧に頷いていた。
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