フォレストガンプの夏

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「君は自由人なんだね」 ケン君をそう評して、私は微笑んだ。  半日、マンツーマンで彼を見守り続けたが、彼と私の距離はまるで縮まりそうにない。そろそろタイムアップだろうと、腕時計に目を向けた。 「ケン君、戻ろうか――って、またなの?」 彼は来たとき同様に全力疾走で来た道を戻っていく。今度は上りだけにきつかった。 「待って、一人では危ないって……」 駆けて、駆けて――そして、彼は間に合わなかったのだ。 「ああ、トイレだったのね。ごめんね……気づかなくて」 漏らしてしまったズボンに嘆息し、慰めの言葉を掛けようとしたところで、またもや彼は駆け出した。 「って、何処に行くのっ!?着替えないと!」 やはり彼は此処へ何度か来たことがあるのだろう。 彼の向かった先はトイレだった。 「でも、もう遅いんじゃ……?」 躊躇いながらも男子トイレの様子をそっと覗った。彼が中に消えて、すぐさま排泄物を流す際の水音だけが聞こえてきた。そして、彼はすぐに外に飛び出して来る。 (???) ケン君に排泄した様子はない。彼はどうやらトイレの水を流す為だけにトイレに向かったのだ。 「ああ……ははっ。そうか、わかった」 私は感動してしまった。 思わず込み上げて来るものを押し込めようと、眉間を押さえる。  彼のお母さんは、きっと彼に排泄の仕方を教える為に、ルーティーンを作ったのだ。 『おしっこをしたら、水を流すのよ』 きっと、根気よく何度も何度も彼にそれを教え続けた。そして、今は意味の無い行為だったのだとしても、彼はそれをしっかりと守ったのだ。 「ほんと……頭が下がる」 これを愛と言わずに何というのか。私は母の無償の愛に感動していた。
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