五分の価値は。

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五分の価値は。

「俺は……もう……最期に……お前といられて……良……か……」 「あぁ!!駄目!!お願い!!目を開けて!!」 「…………」 「あぁ!!神様!!あと五分だけでいいから……!!彼に私の気持ちを伝える時間を下さい!!お願いします!!」 「はぁい、お呼びですかぁ?どぉもぉ!神様ですけどもぉ!その願い叶えられますよぉ」 「えぇ!?何何!?嘘でしょ本当に!?あなた本当に神様!?良かった!!ありがとうございます!!早く!!早くお願いします!!」 「はぁい、毎度ありがとうございますぅ。えぇとぉ、何年ローンで組んでもらっても構わないんですけどぉ、トータルで七十八億円かかりますけどもぉ」 「は……?……えと……じゃ、いいです……無理です……普通にあきらめて普通に悲しんで普通に葬式出します……」 「いいんですかぁ?オプションでこの人の次に某イケメン俳優と付き合えるってのが無料で付いてくるんですけどぉ」 「……ちなみに誰ですか」 「それは一回目のお支払いが済んでからということでぇ」 「……ちなみにいつ出会えるんですか」 「それも一回目のお支払いが……」 「一回目のお支払いってのはいくらなんですか」 「えぇとですねぇ、諸々コミコミで百万円ポッキリってことになってますけどぉ」 「……払えます」 「お買い上げですかぁ?」 「いえ、百万円ならなんとか払えますと言っただけでまだ払うとは言ってません」 「そうなんですかぁ?でも早くしないとそろそろ帰っちゃいますけどぉ、そしたらもう二度と現れませんよぉ?」 「……誰といつ付き合えるのかだけ教えてくれたら用意します、あとできればそのイケメン俳優の資産総額をお調べ頂けますか」 「えぇー?どうしましょうかねぇ、そういうのは規則違反になるんですよねぇ」 「七十八億の買い物するんだから、そもそもそのぐらいの情報は開示してくれても然るべきなんじゃないですか」 「そうかですかぁ?死んじゃう人とあと五分話せるようになるんですよぉ?七十八億は安い買い物だと思いますけどぉ」 「え?」 「ん?」 「あぁ、いや、そう、彼と話すんですよ、七十八億で、わかってますよ、そうそう、あぁ、あと五分あれば彼と色んな話が……」 「いやいやぁ、今完全に忘れてたでしょぉ?そして今起きてこられてももうさっきまでの勢いでは話せない感じになってるでしょぉ?」 「……それも含めて、いつ誰と付き合えるのかというのが非常に重要になってくると思いますので、とにかくいったん教えてもらっていいですか」 「うぅーん、どうしようかなぁ、やっぱりそれはちょっとなぁ」 「いいから早くしてもらえますか」 「うぅーん、えぇとねぇ、いやぁ、でもなぁ」 「神様のくせに案外ケチくさいんですね、残念です。みんなに言ったらきっとみんなもものすごくがっかりするんじゃないかと思いますが、そういうのは大丈夫な方ですか」 「えぇー?うわぁ、いやなところをついてきますねぇ。うぅーん、じゃぁねぇ、えぇとねぇ、うぅーん」 「押し売りに来た方がそんなにまごついてたら客は冷めますよ。こういうのはむしろ『ちょっと違反なんですけど特別ですよ』とか恩着せがましく言ってさっさと買わせてしまうのが定石なんじゃないですか」 「うぅーん……よし、じゃあ思い切って教えちゃいましょうかぁ!」 「……よし!」 「えぇとねぇ、まずその超イケメン俳優ってのがぁ……」 「あぁ!!もう!!全部聞こえてんだよ!!もういい!!お前らもう帰れよ!!」 「うるさい!!あたしの人生がかかってんだからあんたは黙ってあと五分できっちり逝きなさいよ!!」 「あれぇ?奇跡的に生き返ってるじゃないですかぁー、おかしいなぁ、予定に無いぞぉ」 「え?」 「ほ、本当ですか!?」 「うん。まぁ、じゃあしょうがありませんかねぇ、あと五分延長って話でしたけどぉ、それ自体が意味無くなっちゃったみたいだからぁ、僕、帰りますねぇ」 「え……えぇ!?あたしのイケメン俳優は!?誰だったのよ!!せめてそれだけでも言ってから帰ってよ!!」 「いやぁ、だからぁ、それはあくまでオプションですからさぁ、延長の話が無ければそもそも無いんですよぉ。じゃあねぇ!」 「ちょっと!?待ってよ!!ねぇ!?何よ!!イケメン俳優って誰だったのよ!?答えないとこのやり取り、都合良く脚色して後で全部ネットに流すわよ!?いいの!?神様的にまずいんじゃないの!?戻って来なさいよ!!……くっそ……!」 「…………」 「あ……。……え……えっと……あ、あたし、あの、ヤバ、あと五分で終電だわ!?ご、ごめん!もう帰るね!」 「うん……もう二度と来なくていいからね……」 終
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