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そういうと制服の内ポケットからそれを取り出し、見せてきた。
「そこはラジオじゃないんだ」
〈当たり前だよ。選曲できないじゃん。好きな曲、いっぱいあるのに〉
その文字はミミズの死骸などではなく、まるで音符のようだった。こんな生き生きとした次をラジオは初めてだった。
「なんか、元気よくていいね、その文字」
私は思わず口にした。ラジオは首を傾げながら、
〈そう? よくわかんないけど〉
「口元緩んでるよ。もしかして、嬉しいの?」
〈そんなことないよ〉
「本当に?」
〈ないない。僕の字はずっと同じだよ〉
そんなことはない。ずっとラジオの字を見てきたが、先ほどの字は今までにないほど生き生きとしていた。書いている時の音も陽気な音楽のようだった。
もしかしたら、これがラジオの声なのかもしれない。ふと、そんなことを思った。
〈ねえ、ユウリ〉
「なに?」
〈僕の声は僕が文字を書いている時の音ってことじゃだめ?〉
私は思わず笑ってしまった。次第に笑い声が大きくなっていく。ラジオは最初、戸惑っていたが、しだいにつられ始め、一緒になって笑った。だが、ラジオは表情だけで声は出していなかった。
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